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第24話

 それに、ルークには宝物のように思う存在がある。  アルバラを抱きしめたあの優しい腕。それを思い出せば、どれほど大切な相手かはアルバラにだって分かる。  もしかしたら、アルバラが邪魔をしているのかもしれない。  アルバラが居るから、大切な相手と会えないのだろうか。本当は今すぐにでも会いたいけれど、アルバラが居るから会いにいけなくて夢にまで見てしまったということか。  あの堅物そうなルークが、それほどまで……。 「……はぁ……」  ぐるぐると考えては悪いことばかりを思ってしまって、ため息しかもれなかった。  風呂から出ると、ルークはそこには居なかった。黒服に呼ばれてどこかに行ったのかもしれない。そんなことに少しだけ安堵して、アルバラは部屋の真ん中にあったキングサイズのベッドに身を投げる。  一緒に居たいけど、居たくない。矛盾する気持ちがぐちゃぐちゃだったから、今は顔を見たくはなかった。 (……お母様……)  今も、母は尋問を受けている。  アルバラは母を救いたい。けれどユーリウスの元には行きたくない。妃になんてなりたくもない。国王のところはもってのほかだ。それでも今、アルバラの母を救えるのはユーリウスだけである。  自分の意思を貫くのか、母を救うのか。  そんな、ほとんど決まりきった二択に、アルバラは泣いてしまいそうだった。 「出たのか」  涙を堪えていると、ルークが部屋に戻ってきた。  風呂に入るつもりなのか、シャツを豪快に脱ぎ捨てる。 「わ! な、なんでそこで脱ぐんですか!」 「……何を赤くなってるんだ。生娘でもあるまいし」 「きっ……! もう、早くお風呂に行ってください!」 「まったく……」  やや呆れ気味に、ルークは無事風呂に入った。  ——島でも上裸は目にしていた。ガッチリとした筋肉がついていることも、アルバラはすでに知っている。分かっているはずなのに島の時よりも恥ずかしいと思えるのは、あの時よりもルークのことを内面まで知っているからだろうか。  シャワーの音が遠くから聞こえる。それに耳を傾けて、アルバラは高鳴る心臓に落ち着けと何度も言い聞かせる。  こんなにもドキドキしたのなんか人生で初めてだ。胸の奥が切ないような、苦しいような、そんな感覚に襲われて、アルバラは浮かれ心地のままで目を閉じた。    *  ルークが風呂から出ると、アルバラがベッドのど真ん中で眠っていた。  先ほどまで騒いでいた男が、次見てみればこれである。まったく読めない言動に、ルークもさすがにため息を吐き出した。 「……さて。どうするか……」  ベッドに腰掛けながら、ルークは一人小さくつぶやく。  アルバラの利用価値は高い。どう転んでも、ルークが有利であることには変わりないだろう。  しかしあの男……反乱軍の一味であるというアシュレイという男が厄介だ。 「……今のところは大丈夫そうだが」  はたしてこれから、アルバラがいつ逃げ出そうとするか……。  こういった無垢な人間を動かすのならば、情に訴えかけるのが一番である。アルバラを動かすのなら母の話題を出すのが有効だろう。そう思ってはいたが、アシュレイはまさにその話題をアルバラに突きつけた。会話は筒抜けだ。部屋に仕込んだ盗聴器からすべてを聞いていた。 (……強引に連れ出すことはないだろうが……注意が必要か)  つい先ほどまで、ルークはアシュレイの元を訪れていた。  アシュレイはやはり布を噛まされて、後ろ手に縛られた状態だった。ルークのことがよほど嫌いなのか、独房にやってきたルークを射殺さんばかりに睨み付けていたものだ。 『王子を解放しろ。あの人を利用するなんて、殿下が黙ってねぇ』  布を外した第一声がそれだった。 『交渉の材料に使えるということだな。……取引をしよう、アシュレイ・フェリス。アルバラをおまえたちに返してやる』  ルークの言葉に一瞬たじろいだアシュレイは、次にはばらまかれた書類に目を落とした。 『十年前の抗争で死んだ人間のリストだ。——おまえたちが仕込んだ人間をすべて教えろ』 「……ぅ……んぅ……」  アルバラの声に、ルークははたと我に返る。  寝苦しかったのか、横向きに眠っていたアルバラが、緩慢な動きで仰向けに転がった。 「……神に愛された、か……」  どうやったらここまで純粋で無垢な人間が育つのか、ルークには分からなかった。しかし閉じ込められていたのならば納得だ。世間知らずで汚いものを一切遮断されていたのなら仕方がないのだろう。  ——最初はルークに怯えていたくせに、今ではすっかり懐いている。初対面でも善良な人間には見られたことはないから、ルークにはそれが不思議でならない。 「……おまえは、どうなんだろうな」  静かにつぶやくと、ルークはふらりとアルバラの隣に横たわる。抱き寄せればアルバラもすり寄って、冷えかけていた体に温もりが広がった。  大柄なルークから見れば、アルバラは華奢で小さい。本気で抱きしめれば折れてしまいそうな儚さも感じられるアルバラを存外優しく抱きしめると、ルークはそのまま目を閉じた。   

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