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第40話

「……俺も連れて行け。王子様一人で逃げられるのかよ」 「ぼ、僕は、お母様を助けてから逃げないといけなくて、」 「それなら尚更だろ。イレーネ王妃がどこに居るか知ってるのか?」  アシュレイの冷静な言葉には何も言い返せないのか、アルバラがぐっと口を閉じる。 (っても、ルーク・グレイルが王宮に来た時点で、もう王妃もルーク・グレイルの保護下に居る可能性の方が高いけど……)  つまり、探すだけ無駄である。 (あー、今はひとまず外に出してやるべきか? それともそれとなくルーク・グレイルのジェット機に連れて行くか……?)  王宮内の地図が頭に入っていないアルバラを誘導するなんて簡単だ。ルークのジェット機に連れて行ってやれば、ルークもアシュレイを敵認定しないだろう。  そうだ、それがいい。そうしよう。それが最善だ。 「銃を下ろせ。今は王妃のところに急ぐぞ」 「でも、そんなことをしたらあなたが、」 「いいから急げ」  少し離れて立っていたアルバラに歩み寄ると、アシュレイはすぐに腕を引いた。二人で角を一つ曲がり、アシュレイはすぐにピタリと壁に張り付く。  奥の柱に、隠れるように黒服が立っている。アシュレイが変な動きをしないように監視でもしているのだろう。  アシュレイが一発威嚇で撃ち込むと、黒服はすぐに応戦した。 「わ! な、なんですか!」 「耳塞いでろ」  角から銃撃戦を始めたアシュレイの隣、アルバラは身を縮めて耳を塞ぐ。銃声が鼓膜を打つ感覚はやはり慣れない。恐怖から目もキツく閉じて、アルバラはとにかくこの時間が過ぎるのを待っていた。 「聞け! 俺は反乱軍、アシュレイ・フェリス! これから王子とルーク・グレイルのジェット機に向かう!」  アシュレイの言葉に、銃撃が一気に止まった。 「何が目的だ!」 「あんたらのボスはこいつをご所望なんだろ!? 協力してやるって言ってんだよ! おまえは今すぐ『王子が逃げ出した』と奴に知らせて殿下との時間強引に終わらせてこい! いつまでもちんたらしてたら本当に逃げられるぞ!」 「それなら今すぐ王子を連れて部屋に戻れ!」 「馬鹿か! こいつはルーク・グレイルに殺されると思ってる! 素直に行くわけねえから騙して連れてくって言ってんだろうが!」 「その言葉を信じろというのか!?」  突然言われたことを受け入れられないのは当然だ。アシュレイは黒服から見れば敵陣営の人間である。反乱軍のリーダーがユーリウスであることを考えれば、ますます言葉を鵜呑みにはできない。 「俺はもうルーク・グレイルに面も割れてるし名前もバレてんだよ! そんな状況で嘘ついてこいつ連れ出して命危険に晒すようなことはしねえ! こっちは膝の傷も癒えてねえし、逃げ切れるとも最初から思ってもねえよ!」 「……その言葉、違えるなよ。ジェット機は東の庭園にある。そこに向かえ」 「念のため確認なんだけど、イレーネ王妃は?」 「保護している」 「オーケー。それならいい」  角からちらりと顔を出すと、黒服がアシュレイを見定めるように睨み付けていた。しかしそれも一瞬のことだ。黒服はすぐに踵を返して、ルークの元へと駆け出した。 「さて……おい、もういいぞ。おーい、王子」  目も耳もぎゅうと閉じていたアルバラは、アシュレイに揺さぶられてようやくすべてを解放した。 「お、終わった……?」 「ああ。俺の腕にビビって引いたみたいだな」 「すごい……」 「急ぐぞ。イレーネ王妃が捕らえられているのは東の塔の可能性が高い」  アシュレイの言葉に、アルバラは強く頷く。  その一生懸命さがなんだかひどく可哀想に思えて、アシュレイはひっそりと、心中で謝罪の言葉を吐き出した。

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