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その後(1)
アルバラが目を覚ましたのは、まだ日も昇らない早朝のことだった。
ルークには抱きしめられたままである。少し視線を持ち上げれば以前にも見た寝顔があって、アルバラはやはり見惚れてしまう。
普段キリッとしているルークが寝顔ばかりは少し幼く見えるのだから、そんなギャップにもアルバラの心臓はひどく騒いでいた。
(僕は、この人の側にいてもいいんだ……)
少し前まで諦めていたからこそ、今はそれが何よりも嬉しい。
もう二度と会えないと思っていた。これからはずっとユーリウスと共に生きなければならないと、心を殺す日々が続くのだと本気で落ち込んでいたものだ。
けれどもう考えなくていい。アルバラは、ルークと共に生きていける。
包み込むように頬に触れて、アルバラは自然と顔を近づけた。
それにどういう意味があるのかは、無知なアルバラには分からない。イレーネには頬にキスをされていたから、唇にするキスをアルバラは知らないのだ。ただどうしようもなく触れたくなって、衝動的に体が動いていた。
唇が重なる。一度目はあまりよく分からなかった。少し興奮していたのかもしれない。アルバラは改めてもう一度口付けると、ようやくその感触を理解する。
柔らかくてふわふわで、たまらない気持ちにさせられた。一度では足りない。もっと触れたいと唇を近づけて、繰り返し吸い付く。
すると、
「おまえは、」
「っ、わー!」
閉じていた目がパチリと開いて、アルバラは驚きから思わず距離をとった。しかしルークが許すはずもない。アルバラが離れすぎないようにと強く抱きしめたまま、じっくりとアルバラを見つめていた。
「あの、お、起きて……!」
「おまえより先に起きてはいたが」
「なんで寝たふりするんですかぁ!」
よほど恥ずかしかったのか、アルバラは涙目で訴えかける。
キスという行為に対して、「恥ずかしい」という感情はあるようだ。「好き」と伝えることに躊躇いがなかったから、ルークはもはやアルバラの中には恥ずかしがる感情なんてないのだと思っていた。
ちなみに、なぜ寝たふりをしていたか、なんて、アルバラと同じようなことをルークもしていたからである。むしろそれのせいでアルバラは目を覚ましたのだが、寝ている間のことなんか分からないのだから知らなくても無理はないだろう。
「おまえは、そういうことをするのが嫌ではないのか」
「……そ、そういう……?」
「俺が、おまえに触れて」
ルークの手がアルバラのシャツの裾から侵入して、背を伝う。
「気持ちが悪いと思わないのかということだ」
アルバラの首にはまだ、ユーリウスにつけられた跡が残っている。王宮で再会した時の様子を思い出しても、強引に触れたのであろうユーリウスに対して嫌悪感を抱いているのは火を見るより明らかだった。
それは相手がユーリウスだからなのか、それともそういった行為自体に対してなのか。ルークにも判断ができなくて、アルバラには触れられないものだと勝手に思い込んでいた。
しかし、後者でないのなら話は変わる。
触れても良いのなら、もちろん触れたい。ユーリウスの跡なんか分からなくなるほどに身体中に跡をつけて、ルークが触れなければイけなくなるくらいには気持ちよくしてやりたかった。
「あっ……あの……」
肌に触れる手が、腰を撫でる。その動きに首筋までを真っ赤に染めると、アルバラは心底困った表情でルークを見つめた。
「……い、いや、じゃない、です」
「嫌じゃない?」
「はい、その……」
「ではこうしよう」
腰から抱き寄せて、ルークは一つ口付けを落とす。
「嫌になったらやめてやる。それまでは好きにさせろ」
欲に濡れる雄の瞳が、アルバラをまっすぐに射抜いていた。それに逆らうなんてできなくて、アルバラは何度も何度も小刻みに頷く。恥ずかしいのに、嬉しいと思ってしまう。そんな気持ちに素直になって、アルバラはただルークにしがみついていた。
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