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誤算②
しかしそのタイミングで、彼が大きく身震いする姿がインターホンのモニター画面に写し出された。
困惑しながらもまだ外の空気が冷たい季節だったから、風呂上がりで髪が少し濡れたままの彼をいつまでも外に立たせているワケにもいかずしぶしぶ鍵を開けて顔を覗かせた。
「なんかよく、分かんないけど……とりあえず、入れば?」
***
僕の部屋に置かれた安物のソファーに、セレブ然とした雰囲気の元クラスメイト 早乙女くんが、さっきとは打ってかわって嬉しそうにキョロキョロしながら座っている。
コイツ、こんなキャラじゃないだろ。
……ホント、シュール過ぎる。
昨夜再会する前の自分には、とてもじゃないが信じられそうにない状況だった。
しかもこの男に抱かれ、あっさりイかされてしまったとか……。
「何か、食べる?僕はお腹が空いたから、レトルトで良かったら君の分も準備するけど」
「大晴が俺のために、飯を用意してくれるとか。
……食う。食うに、決まってる」
蕩けそうなほど、甘い微笑。
それに戸惑いながらもその動揺に気付かれたくなかったから、早乙女くんに背を向け、飲み物を準備するため冷蔵庫を開けた。
すると彼はゆったりと席を立ったかと思うと、僕の隣に移動してきた。
「まだこれ、好きだったんだ?」
そう言って彼が手にしたのは、いちごミルクの入った紙パック。
いい年をした男がそんな物を好むのかとからかわれたのだと思い、羞恥からカッと顔が熱くなる。
「……悪い?」
つい突っかかってしまうこういうところも、子供っぽいのかも知れないと気付いたけれど後の祭り。
ブハッと思いっきり吹き出したかと思うと、そのままぎゅっと強く抱き寄せられた。
「悪くない。可愛い。
あとお前が、変わってなくて嬉しい」
そこで、はたと気付く。
……なんで彼は、僕がこれを好きだと知っていたのだろう?
そんな疑問が、まんま顔に出てしまったんだろうな。
彼はクスクスと楽しそうに笑いながら、僕の頬に軽く唇を寄せた。
「言ったじゃん?俺は大晴の事が、ずっと好きだったって。
お前がよく校内の自販機で買ってたから、覚えてた」
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