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誤算③
僕の事が好きだのなんだのと言うのは、ベッドの上での単なる戯れ言だと思っていた。
だけど、違ったのだとしたら……。
そう言えば彼は、教えてもいないのに僕が住むこのアパートの場所を知っていた。
大学を卒業後僕は実家を出て、すぐ近くに部屋を借りた。
そしてそれを知るのは高校時代の同級生の中でも、ごくわずかな人たちだけのはずなのに。
「……なんで僕の住所、知ってたの?」
恐る恐る、震える声で聞いた。
すると彼はにっこりと微笑み、当たり前みたいな顔をして答えた。
「逆に、聞くけど。
なんで知らないと、思ってたんだよ?
お前が俺に、教えてくれたんじゃん」
ポケットから、一枚の紙切れを取り出す早乙女くん。
それは昨夜僕が書いた、結婚相談所の契約書だった。
だから慌ててその用紙を取り返そうとしたけれど、高く腕を伸ばされ阻止された。
「これってもはや、運命じゃね?」
ニッと笑って言われたけれど、ハイそうですねとは微塵も思えない。
冬だと言うのに、嫌な汗が背中を伝っていった。
「個人情報!!返してよ、早乙女くん。
……もうそんな契約は、解約する」
彼の綺麗な顔面を、キッと睨む僕。
すると彼はなだめすかすように僕の頭をよしよしと、子供にするみたいに優しく撫でた。
「その必要は、ないよ。
だってそもそもの話、契約は完了してないし。
お前に女を、紹介するとか……。
あり得ねぇわ、マジで」
あまりに予想外の展開に、口をパクパクと陸に揚げられたばかりの魚みたいに開閉する事しか出来ない僕。
「他所じゃなく、うちに来てくれてホントありがと。
あ、そうだ……契約金!
ちゃんと大晴に、返しとくね」
こうして婚約指輪から結婚相談所の契約金へと変わった目にもしたくない現金は、再び手元へと戻ってきてしまった。
……何故か僕に対して激しい執着心を抱く、イケメンでハイスペな同級生と共に。
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