「大丈夫か？大晴。 　なんか顔色が、いつも以上に悪いみたいだけど」 　その翌日の、夜。 　数少ない友人のひとりである知之(ともゆき)と共に訪れた、いつもの居酒屋にて。 「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがと。 　でもな、知之。……『いつも以上に』は、余計だから！」 　ビールをグビグビと一気に飲み干すと、空になったジョッキをテーブルの上にガンと置いた。 「アハハ、すまん。 　けどまぁ、そりゃあショックだよな。 　ずっと片想いしてた史織ちゃんが、あっさり他の男に奪われちまったんだから」 　しんみりと言われたその言葉に思わず、こてんと首が傾いた。 　すると知之も、僕と同じように首をかしげた。 「何？その顔。……その話がしたくて、俺を呼び出したんじゃないのかよ？」 　そう言えば、そうだった。 　なのにすっかり、忘れてしまっていた。 　僕がずっと好きだった史織が急に結婚する事になったというあのあまりにもショッキングな事件を忘れ去り、僕がずっと考えていたのは、彼女ではなく早乙女くんと過ごしたあの夜の出来事ばかりだった。 　小学生の頃から大好きで、大好きで。 　呪いにも似た片想いから、ずっと逃れる事が出来なかったはずなのに。 「おーい、大晴？ホント、大丈夫かよ……」 　プラプラと目の前で揺れる、知之の手のひら。　　 　そこでようやく、我にかえった。 　だけどまさか元同級生で、高校時代ヒエラルキーの頂点に君臨していたあの(・・)早乙女くんと、あんな関係(・・・・・)になりましただなんて、例え気心の知れたコイツであっても話せるはずもなく。 　……僕は途方にくれて、ただ曖昧に笑って誤魔化した。