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初恋の終わり②

 結局昨夜は終始笑顔のままの彼とふたりで、僕の用意したパスタを食べた。  だけど食べ終わった後もまだ一緒にいたい、帰りたくないと食い下がる彼をなだめすかし、やっとの思いで追い返す事に成功したのだ。  しかし奪われた僕の個人情報は、住所だけではなかった。  電話番号とメールアドレスも保護される事無く、しっかりちゃっかり強奪されていたのである。  連絡が来てもブロックするなり、無視するなりすれば良いじゃないかと思われるかもしれないが、僕はそういった真似が出来るほど、器用な人間ではなかった。  だから連絡が来る度、迷いながらもつい彼の相手をしてしまっている、というのが現状である。 「まぁ俺には、なんでも愚痴っていいよ?  今さら格好つけられたところで、これまで散々情けないところも見てきたしな」  ニヤリと意地悪く笑い、知之は言った。  だけどこれはきっと、コイツなりの優しさで。  数少ない大切な友達の存在に、ちょっとだけ救われた気がした。 「思ったほどは、落ち込んでもないんだよね……。  だけど心配してくれて、ありがと。  でももう、大丈夫だから」  知之にはそう答えたけれど、本当は思っていたほど落ち込まなかったどころの話ではない。  だって僕は、大好きな史織の結婚というとんでもなくショックな出来事を、気が付くとすっかり忘れてしまっていたのだから。  根がネガティブな人間だから、引きずらずに済んだ点に関しては、早乙女くんに感謝しても良いかもしれない。  ……ほんの、少しだけ。

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