『もしもーし。どうした？大晴。 　お前から連絡くれるとか、めっちゃ嬉しいんだけど』 　聞こえてきたのは、そう。 　僕が現在怒り猛っている相手、早乙女くんの無駄に色っぽい声である。 「嬉しいって、なんだよ？ 　僕は君に対して、怒ってるんだからな！」 　苛立ち、挨拶すらしないまま、いつになく大きな声で叫んだ。 　ぎょっとした様子で、声量を下げろとジェスチャーだけで訴える知之。 　そこでようやく今自分が居酒屋の店内にいるのを思い出し、今度は静かな口調で告げた。 「昨日の、アレ。どういうつもりだよ？ 　……僕は君のした事、許したワケじゃないから」 　のらりくらりと、僕の怒りはかわされて。 　結局何も問題は解決しないまま通話が終了すると、軽く引いた様子で知之が聞いた。 「お前がそんだけぶちギレるって、マジで珍しいな。 　相手はいったい、何処の誰だよ？」 「んー？早乙女くんだよ。 　お前も、知ってるだろ？」 　酔っていた事もあり、フフンと笑って答えた。 　だけど彼は不思議そうに首を傾げ、記憶を捻り出そうとするように眉間に深いシワを寄せた。 「知らね。いや……一人だけ、一応浮かぶには浮かんだんだけどさ。 　高校の時のクラスメイトの、遼河のはずがないし……」 　当然のように除外されたが、正解である。 　ちなみに知之は僕とは異なり、誰とでもすぐに仲良くなれるタイプだから、早乙女くんとも当時それなりに親しくしていたように思う。 　そして良くも悪くもコイツは空気が読めない人間なため、陰キャ代表でクラス内ではやや浮いた存在だった僕みたいなヤツとも仲良くしてくれたのには、本当にいくら感謝してもし足りない。 　 「アタリ。その、早乙女くんだよ！」 　忌々しい気持ちで、答えた。 　すると知之は、相当驚いた様子で目を見開いた。 「え……。マジであの、早乙女 遼河？ 　お前ら、親しかったっけ！？」 　彼が驚くのも、もっともである。 　在学中ですらも片手で足りるほどしか話した事がなかったあの男と、僕の間に接点があると思う方がどうかしている。