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一時休戦②
先日からこの男には、キスなんて何度もされている。
なのに不意打ちだった事もあり、僕の心臓は自分でもびっくりするぐらい激しく脈打った。
***
「ねぇ、早乙女くん。
……なんであんな動画を、撮ったの?」
腹が立ちながらも、彼は本当に脅迫目的であんな真似をしたのだろうかと、ちょっと不思議に思ってもいた。
話した事はほとんどなくても、そういう事をするタイプの人間に、どうしても思えなかったから。
だから少し酔いも覚め、冷静さを取り戻した僕は聞いた。
すると彼は困ったように僕から視線をそらし、答えた。
「さっきも言ったけど、本気で脅迫に使うつもりなんて無かったよ。
だけど……」
そこまで言うと今度は真っ直ぐに僕を見据え、早乙女くんは真剣な表情で告げた。
「酔ってたせいにされて、マジで全部無かった事にされると思ったから。
……あれで終わりになんか、絶対にしたくなかったんだ」
信用のならない男ではあるが、これは彼の本心である気がした。
でも、だとしたら。
……そもそもの話、なんで|あんなの《・・・・》を動画に納めようと思ったんだよ?
その疑問が、まんま顔に出ていたのだろう。
彼は苦笑して、バツが悪そうに言った。
「あー……アレを撮ったのは、記念的な?
あとでまたふたりで観たら、盛り上がるかなと」
どうやらあの動画の目的は、本当に脅迫のための材料なんかではなかったらしい。
だけどコイツ、ガチ目の変態だ……!!
ドン引きする僕を尻目に、彼はニッと笑った。
「でも、たぶんだけど。
お前そういうプレイも、好きだと思うぞ?
だってちょっと苛めてやった方が、中、スゲェ締め付け良くなるし」
……なんて事を、言いやがるのだ。
羞恥にふるふると震える僕の手を、優しく包み込む彼の大きな手のひら。
「……なんなら今から、試してみる?」
少しだけ下がった、声のトーン。
耳元で囁かれ、体に一瞬のうちに熱が灯る。……だけど。
「丁重に、お断りさせて頂きます!
っていうかアレ、ホント消せよな」
無理矢理仏頂面を作り、彼の事をギロリと睨み付けた。
すると早乙女くんはクスクスとおかしそうに笑い、嫌だねと言ってべぇと舌を出した。
……子供かよ。
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