30 / 132

キス①

 アイスももうふたりとも食べ終わってしまったから、彼が立ち上がるのに合わせてベンチから腰を上げた。 「……これから、どうするの?」    僕の問いに、彼はクスリと笑い質問で返してきた。 「大晴は、どうしたい?」  僕の顎先に指を添え、悠然と微笑む早乙女くん。  それは……返事次第では、帰らせて貰えるという事だろうか?  さっきまでのように、知之も交えて三人で話していた時みたいに普通に話したりするだけなら別に、一緒に居ても不快じゃない。  むしろ、楽しいまである……かもしれない。  しかしおそらく言われるがままついて行ったが最後、僕はきっとまたこの男に襲われてしまうに違いない。  それはさすがにちょっと、抵抗がある。  アレ?ちょっと……?  ちょっとじゃない、めちゃくちゃ抵抗がある!  危うく絆されそうになっているのに気付き、あわててブンと大きく頭を横に振った。  すると早乙女くんはそんな僕を見下ろしたまま、プククと可笑しそうに笑った。 「僕の希望を聞いたら、それに従ってくれるの?」  じっと顔を見つめ、聞いた。  彼がにっこり微笑んでくれたから、ホッとしたのも束の間。  優しい笑みを浮かべたまま、彼は僕の望みとは真逆な言葉を口にした。 「まさか!俺がしたいように、するけど?」  くっ……!本当に、この男だけは。 「はぁ!?なんだよ、それ。  なら聞く意味、ないじゃん」  フキゲンさを隠すことなく、唇を尖らせ告げた。 「アハハ、確かに。  じゃあ、行こっか?」  先程までと同じように、彼は微笑んでいるはずなのにその笑顔は艶っぽく、色気が駄々漏れていて。  ……魅入られたみたいに僕は言われるがまま、差し出された手を取ってしまった。

ともだちにシェアしよう!