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キス②
***
彼が一人で暮らしているマンションは、僕達が再会したあの結婚相談所からほど近い所にあった。
部屋に入るなり、キスで塞がれた唇。
抵抗しなくてはと頭では思うのに、体の方は完全に僕の事を裏切り、熱を持っていくのを感じる。
そして気付くと僕は、求められるまま彼の舌先に舌を絡め、背中に腕を回していた。
「エロい顔……。もう、発情しちゃった?」
唇を離し、彼はニヤリと笑ってそう言うと、ペロリと僕の唇に軽く舌を這わせた。
まるでパブロフの、犬みたいだ。
……彼にキスをされただけであっさりスイッチを入れられ、もっと求めたくなってしまうだなんて。
「酔ってるからね。じゃなきゃこんな事、君とはしてないよ」
ささやかな、抵抗。
またいつもみたいに言い返されるかと思ったのに、彼はただ悲しそうに笑った。
それに戸惑い、途端にどうするのが正解か、なんて言うのが正解か、分からなくなってしまう。
でも、ひとつだけ分かるのは。
……早乙女くんに、そんな顔をして欲しくないって事。
正直なところ、彼に対して自分が抱くこの感情に、今はなんて名前を付けて良いかも分からない。
だけどこんな風にキスをしたり、それ以上の事をされたとしても、前ほどは抵抗がない。
気持ちが良い事が好きなだけだろうと言われれば、それまでだけれど。
「……冗談だよ。もう酔いは、完全に覚めたから」
ククッと笑い、彼の情けない顔を覗き込む。
すると早乙女くんは僕の事をまたじっと見つめ、それから指先で唇に優しく触れた。
そして彼の綺麗な顔が、また近付いて来て。
……どちらからともなくさらにふたりの唇が近付き、その距離はあっという間にゼロになった。
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