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突き付けた選択肢①
女の子のモノとはまるで異なる、ゴツゴツと骨張った手。
服の上からでも分かるくらい、適度に筋肉の付いた肉体。
美しい見た目も、社会的地位も、金も、人望すらも。
男なら誰もが憧れるすべてを持つこの男にこんな風に求められ、乞われているというこの状況がやはり不思議でならない。
なのに同性相手だというのに、もう逃げたいとも思っていなくて。
失恋してからまだほんの少しの時間しか過ぎていないと言うのに、あっさりまた体を許してしまいそうになっている自分。
それが、信じられなかった。
貞操観念は、正直かなり緩い方だと思う。
だってこれまでも嫌な事がある度、好きでもない女の子達と関係を結んできたワケだし。
だから今さらカマトトぶって、愛がないセックスなんて、などと言うつもりもない。
しかしどんな手を使ってでも僕が欲しいと望む早乙女くんの気持ちに、応えられるかと聞かれたら。
……それはやはり、自信がなかった。
体だけを求められているなら、まだ良かった。
でも心を望まれたら、途端に迷ってしまう。
これまでの恋愛では、告白されてその想いを受け入れても、やっぱり史織みたいには愛せないからと、結局いつも自分から別れを告げてきた。
……こんな僕にまともな恋愛なんて、きっと出来ない。
「ねぇ、早乙女くん。
僕はたぶん誰かの事を史織と同等だったり、史織以上に好きになったりはしないと思う。
だけど嫌な事を考えなくて済むから、気持ちが良い事は好きだよ」
彼の濃灰色の瞳が、戸惑ったように揺れた。
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