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突き付けた選択肢②

 彼の悲しそうな顔は、苦手だ。   でも……だからこそ、これ以上関係が深くなる前にきちんと伝えておきたかった。 「だから僕に心まで、求めるなら。  ……僕には、無理だよ。  でもセフレとしてなら、良いよ。  早乙女くんに、付き合ってあげる」  なんて歪んだ、自分勝手な提案だろう?  しかしさすがにここまで言えば、引き下がってくれると思った。  なのに彼はフゥと息を吐き、ニヤリと不敵に笑って答えた。 「お前さぁ……何か、勘違いしてない?  男でも女でも俺は、選び放題な立場なワケ。  別にお前とただヤりたいだけじゃないから、セフレの地位なんぞにいつまでも甘んじてやるつもりはない。  ヤる事はもちろんヤるけど、そのうちちゃんと俺に惚れたって、言わせてみせるから」  そのままソファーの上に組み敷かれ、再び奪われた唇。  自分のさっきの発言は、我ながら本当に自分勝手なモノだったと思う。  しかしコイツの傲慢さと比べたら、可愛いものな気すらしてしまう。  唇に唇を押し当てられたまま、思わずプッと吹き出した。  学生時代はよく知らなかったけれど、コイツってこんな奴だったっけ?  体を離し、そのまま腹を抱えて爆笑する僕。  すると彼は僕をもう一度抱き締め直し、今度は拗ねたような口調で言った。 「おい!今の、笑うところじゃねぇから。  ……ホント、ひでぇヤツ」  その表情は昔飼っていたハスキー犬が、僕に対して怒っていた時となんだかよく似ている気がした。  だからそんな彼を可愛いと思ってしまうのはきっとそのせいだろうと、無理矢理結論付けた。  それが可笑しくてまたつい吹き出すと、早乙女くんは僕の首筋に、軽く噛み付いた。  やっぱりコイツ、犬じゃん。     高校生の頃はクラスの輪の中心にいつもいる、彼みたいになれたらななんて考えて、少しだけ憧れていた。  なのにあれから時が過ぎ、あの頃よりもずっと大人になった彼の事を犬呼ばわりする日が来るとは。 「今はまだ、カラダだけの関係で良いよ。  でも、忘れんな。  ……お前が俺は、めっちゃ好きだって事」  真剣な表情でそう言うと、彼は僕が着ていたシャツのボタンに手を掛けた。

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