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愛だの、恋だの②
「うん。昨日は飲み過ぎて、友達の家に泊めて貰ったからね」
別に嘘は、言ってない。
……ただどういう種類の友達か 、が問題なだけで。
だけどそれをただの仕事仲間である日和さんに、いちいち説明する必要もなかろう。
そんな風に、考えていたというのに。
彼女はちょっと拗ねたように唇を尖らせ、僕の顔をじっと見上げて言った。
「そうなんですね。……その相手って、もしかして女の子?」
「いや、男友達。高校の時の、同級生」
すると日和さんはほっとしたように顔を綻ばせ、笑った。
これまでの僕であれば、間違いなく何も疑問には思わなかったであろう日常会話。
しかしこれはたぶんだけれど、僕に対して好意的な感情を抱いてくれているという事だろう。
なのに頭に浮かんだのは、嫉妬して拗ねる早乙女くんの顔で。
ついプッと吹き出しそうになり、慌てて表情筋を引き締めた。
「今度また、私とも飲みに行きませんか?」
ふわふわとカールした明るい茶色の髪が似合う、社内でも可愛いと評判の女子、日和さん。
これまでは史織一筋だった事もあり、この子が僕に対してこんな風に好意的な感情を抱いてくれているだなんて、考えた事もなかった。
でもやっぱり社内恋愛なんて、煩わしいとしか思えない。
それに既に僕には、面倒なことこの上ない、セフレの早乙女くんが居るのだ。
別に彼に義理立てする必要もないが、コミュ力欠乏症の僕は、無理して新たな交流関係を築く気もない。
「そうだね。また機会があれば、皆で行こっか?」
笑顔で好意を、拒絶した。
戸惑ったように揺れる、日和さんの大きな瞳。
だけど僕はもう一度にっこりと微笑み、自分の席へ戻った。
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