45 / 132
愛だの、恋だの③
愛だの恋だのといった感情は、今は正直なところ面倒臭いとしか思えない。
だって僕は史織に対する気持ちに、まだ決着をつける事すら出来ていないのだから。
というか、そもそもの話。
……僕は本当に彼女に、恋をしていたのだろうか?
史織といると、落ち着くし楽しい。
だけど早乙女くんとふたりでいる時ほどドキドキしたり、胸が苦しくなったりはしていなかったのではないだろうか?
そこまで考えた、タイミングで。
始業を告げる音楽が流れ始めたから、僕は考える事を放棄した。
***
昼休みに社員食堂でスマホを確認すると、早乙女くんからのメッセージが。
『仕事、間に合った?
腰は、痛くない?』
間に合ったよ、本当にギリギリだったけど。
……そして痛いよ、めちゃくちゃ。
その原因は、誰だよと問いたい。
しかし責めたところであの男が、素直に反省するとも思えない。
だから文章ではなく、大丈夫と答えるウサギのスタンプだけ送っておいた。
何となくだけれど分かり始めた、彼のワガママで傲慢な本性。
なのに高校時代憧れていた彼より、今の早乙女くんの方がずっと身近に感じられる気がした。
そんな事を考えていたら、いつの間にか口元が少し緩んでしまっていたらしい。
「おーい、佐瀬。俺の話、聞いてるか?
絶対、聞いてないだろ!
なんかお前、スッゲェにやけてたし。
それに今日は仕事中もずっと、上の空みたいな感じだったしな」
同期入社の桂木 くんが、呆れ口調で言った。
基本的に表情がなく、何を考えているのかよくわからないと評される事も多い僕。
なのにこんな風に周りから見ても分かるほど、顔に出てしまっていたのか。
慌てて真顔を作り、それから微笑んで言った。
「あー……ごめん。ちょっと、考え事してた。
で、何の話だっけ?」
ともだちにシェアしよう!