50 / 132

地獄の金曜日④

 そのまま店の外に出て、通話開始のボタンを押した。  そして早乙女くんに繋がるや否や、開口一番。  普段とはちょっと異なるやや強い口調で、挨拶の言葉もないまま告げた。   「今日は僕、遅くなるって言ったよね?  外で君に待たれてるかもって思ったら、全然落ち着いて楽しめないんだけど!」    すると彼はいつになく弱々しい、小さな声で答えた。 「ごめん。……でも待ちたいから、俺が勝手に待つだけだから」  その反応に、途端にどうしたら良いか分からなくなる。  いつもの高圧的な態度にはいらっとする事もあるが、こんな風に言われたら……。 「気になんて、するに決まってるだろ?  ○○駅前に、23時待ち合わせ。それが嫌なら、今日は会わない」  時間と場所を一方的に指定して、通話終了のボタンを押した。 ***  席に戻ると日和さんが、ほろ酔いで僕の帰りを今かと待っていた。  僕の姿を視界に入れるやいなや、ふにゃりと嬉しそうに笑う彼女。  それに気付いたらしき同僚の、鋭い視線。    ……ハハ、何だよ?コレ。  僕何か、悪い事した?  残っても地獄、帰っても地獄という避けようのない状況に精神的に追い込まれ、自然と酒を飲むピッチも早くなる。  そして、その結果。  ……僕は禁酒を考えていたはずなのに、またしても酩酊状態に。  気付くと時刻は、23時の少し前。  そのままカラオケに行こうぜなどと桂木くんがハイテンションで提案していたけれど、僕はその誘いは慎んで辞退させて頂いた。  駅まではそう遠くないから、今から向かえば約束の時間には間に合うだろう。 「ごめんね。僕は、そろそろ帰らなくちゃ」  その言葉を聞き逃す事なく、僕の隣をしっかりちゃっかり陣取っていた日和さんが言った。 「なら私も、失礼します。  佐瀬さんも確か、駅から電車でしたよね?」  ……肉食系女子、こわい。

ともだちにシェアしよう!