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ココロの記憶②
自覚は無かったけれど、どうやらいつの間にか僕は泣き出してしまっていたようだ。
慌てた様子で拘束を解き、僕からすべてのオモチャを取り去ると、彼は強く抱き寄せてくれた。
ごめんと何度も、呟くように小さくて弱々しい声で言いながら。
彼の大きな体が、小刻みに震えているのを感じる。
だからこれは演技などではなく、本当に反省してくれているという事なんだろうと思う。
早乙女くんのした行為は本当にサイテーだし、それこそこんなのは訴えてもいいレベルだ。
なのにいつもみたいに、ぎゅって抱き締めてくれたのが嬉しくて。
僕も彼の背中に腕を回し、キスを求めた。
迷うような素振りを見せながらもそれに応え、いつもみたいに優しく、まるで宝物に触れるみたいに撫でてくれたから気が緩んで。
……僕はちょっと微笑み、そのまま意識を飛ばした。
***
その時夢に見たのは高校時代の、唯一にも等しい僕と彼、ふたりだけでの会話だった。
『遼河って、なんかムカつくよな。
何でも出来て、何でも持ってて。
……絶対俺らの事、見下してるよ』
それこそ僕がいるのに、はじめは気付いてすらいなかったのだろう。
放課後 知之の委員会が終わるのを待っていたら、同じクラスのカースト上位者達が、早乙女くんがいない教室内で、いきなり彼の事をこき下ろし始めた。
だけどその内容はどれも下らなく、どうしようもなく理不尽で。
……ただの嫉妬としか思えないような、そんな類いのモノばかりだった。
最初僕はいつもみたいに、ただの空気と化していた。
だって彼らは僕なんかと違い、クラスの中心的存在で。
体格も僕よりもずっと大きく逞しくて、恐ろしくてとてもじゃないけれど噛み付くような真似は出来なかったからだ。
だから早乙女くんはそんな人じゃないと心の中では思いながらも、それを言葉にする事は出来なかった。
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