59 / 132

ココロの記憶③

『なぁ!佐瀬も、そう思うだろ?』  突如会話を振られ、戸惑う僕。  だけど例え嘘でもその考えに賛同するのは嫌だったし、だからといって彼らの言葉を否定する勇気も無かったから、ただ曖昧に笑ってやり過ごそうとした。 『だよなぁ!やっぱお前も、ムカつくよな?』  勝手に同調した事にされ、不快な気持ちが増していく。  そしてその気持ちが、ただ平和に過ごしていたいと願う自分を凌駕して。  ……気付くと僕は、笑顔のまま否定の言葉を口にしていた。 『うーん……。僕は、そうは思わないかな?  確かに彼は良い家に生まれて、顔も良くて、運動だって出来る。  だけどそんなのは、彼が望んで選んだ事じゃない。  それに勉強に関しては、努力もしてるんじゃないかな?  ……人の事を貶めるような事ばかり言ってる、君達よりもずっと』  思っていた事をすべて言ってから、しまったと思った。  そして中心になって悪口を言っていた男が立ち上がり、僕の机にバンと大きく音を立てて両手をついた瞬間、情けない事に恐怖に体がすくんだ。 『へぇ……佐瀬、お前そういう事言っちゃうんだ?  オタクが、いきってんじゃねぇよ!』  グッと制服のシャツの襟元を掴まれ、無理矢理立ち上がらせられた。  そしてあわや、殴られると思ったその時。  ……教室のドアがガラリと開けられ、早乙女くんがにっこりと微笑んで現れた。 『はぁい、ストップ。そこまで。  俺のために、熱くなってくれるのは嬉しいけど。  ……男の嫉妬は、見苦しいぞ?』  すると慌ててその男子は、僕から手を離した。  それを見て早乙女くんは、切れ長の目をスッと細め、いつものように明るく軽い口調で、笑顔のまま告げた。 『まぁ俺の事は別に、好きに言えば良いけどさぁ。  また佐瀬に、なんかおかしな真似したら。  ……お前ら全員、殺すよ?』

ともだちにシェアしよう!