62 / 132
僕は、君がいい②
じとりと睨み付け、まだ怒っているのだとアピールを試みる。
僕への重過ぎる愛にドン引きしてはいるものの、実際はもう怒ってなんていなかった。
でもここはキチンと、反省させておかねばなるまい。
だって同僚達と飲む度に嫉妬され、あんな目に遭わされるだなんて。
……そんなの、冗談じゃない!
嬉しそうに笑っていたはずの彼の表情が、見る間に曇る。
やっぱりこういう時の彼は、叱られた大型犬みたいだ。……可愛い。
それを見てつい吹き出しそうになったけれど、慌てて顔を引き締めた。
「ごめん。
でもあんな風にお前に触れるあの女の事が、どうしても許せなかったんだ」
やっぱり嫉妬から来る、凶行だったか。
しかし軽く手に触れられただけで、アレとか。
……まるで子供みたいな言い訳に、我慢出来ずに今度は思いっきり吹き出してしまった。
「……あとあの子、大晴に名前で呼ばれてたし」
最終的なトリガーは、名前呼びだったらしい。
何故そこに、そんなにもこだわるのだろう?
不思議に思い、聞いてみると、彼は僕から視線をそらし、バツが悪そうに答えた。
「だってお前、俺の事、素面だと絶対に名前で呼ばないじゃん。
……知之とか、君下の事は呼ぶくせに」
なるほど。確かになんとなく気恥ずかしくて、求められても僕は彼の事を、頑 なに早乙女くんと呼び続けた。
しかしそれが彼を、更に不安にさせているのだとしたら。
……そして名前で呼ぶ事で、その不安を取り去る事が出来るのだとしたら、それはとても価値のある行為なのかもしれない。
「ねぇ、早乙女くん。……いや、遼河くん。
一度しか言わないから、ちゃんと聞いてね?」
彼の頬に両手を添えて、無理矢理視線を合わさせた。
ともだちにシェアしよう!