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負けられない戦い②

「さて……じゃあ、始めますか!」  知之の言葉を合図にして始まった、アラサー男子が雁首(がんくび)を揃えての、真剣勝負のババ抜き大会。 「……負けたらホントに、買いに行かなきゃ駄目?」  カードの束を手に、恐る恐る聞いた。  だけどふたりは顔を見合わせ、見事なぐらい声を揃えて答えた。 「「勿論!」」  しかし僕が、相当悲壮感の漂う顔をしていたせいだろう。  知之はクククと笑い、フォローらしき言葉を口にした。 「負けなきゃ、良いんだよ。負けなきゃ!  てか別に、そこまで青ざめるような内容でも無くね?  俺らもう、三十路だぞ」     大人のオモチャを買いに行かされるのも、もちろん恥ずかしい。  話には聞いてもそんないかがわしい店に、これまで僕は行った事すらないのだから。  だけど問題はむしろ、その後なのだ。  ……それを使い、好き放題また遼河くんに弄ばれる未来しか、想像出来ない。  とはいえこんな事、知之には口が裂けても言えないけれど。   「そう、そう。はなから負けると思ってたら、勝てる勝負も勝てないぞ?」  そんな事を言いながら、配られたカードを確認して順調に減らしていく遼河くん。  まだ準備段階だというのに、減らし過ぎだろ……。  僕は運もあまりないため、スタートダッシュで既にかなり差をつけられてしまった。    そして本格的にゲームが始まると、驚くほどに手際よく、ふたりは手持ちのカードをどんどん減らしていった。  なのに僕だけ、なかなか絵柄を揃える事が出来ないでいる。  でも。……でも負けられない戦いが、ここにある! 「よっしゃ、揃った!ハイ、俺の勝ちぃ♪」  そうこうする間に、知之がいち抜け。  残るは僕と遼河くんの、ふたりだけとなった。

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