107 / 132

選べなかった未来①

「別にずっと、普通に笑ってたと思うけど……」  咄嗟に口にした、嘘の言葉。  すると彼は真っ直ぐに僕の目を見つめたまま、困り顔で笑った。 「……嘘吐き。俺がどんだけお前の事、好きだと思ってんの?」  それからいつもみたいにベェと舌を出したかと思うと、もう一度僕の頭をそっと撫でてくれた。 「無理して笑えとは、言わないけどさ。  ……お前が俺と一緒にいて、少しでも楽しいって思ってくれたら嬉しい」  僕をいつもオモチャみたいに扱う癖に、こういう時は大切な、まるで宝物みたいに優しく触れる彼。  最初の頃は正直それにかなり戸惑ったけれど、どちらもやっぱり同じ遼河くんで。  そして酷い目に遇わされるのはいつだって、彼が何かに嫉妬したり、彼を不安にさせた時。  少しずつ分かり始めた、彼の行動パターンと思考回路。  地雷はあちこちに埋まっているけれど、その位置をちゃんと把握し、僕がそれをうまく避けたさえ彼は無条件に愛してくれる。  本当はずっと、気付いていた。  彼はアソビなどではなく、本気で僕を愛し、求めてくれているのだと。  なのにそれを認めてしまうのは、やっぱりこわい。  何かを得る喜びよりも、僕は失う悲しみの方をよく知っているから。 「何?それ。  僕は普通に楽しんでるし、笑ってる。  遼河くんの、気にし過ぎじゃない?」  にっこりと微笑み、告げた。  眉間に寄せられた、深いシワ。  だけど彼はククッと可笑しそうに笑い、僕の頭を今度はくしゃりと撫でた。 「ホント大晴って、変なところで強情だよなぁ……。  でもまぁ、いいや。今日のところは、そういう事にしておいてやるよ」

ともだちにシェアしよう!