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選べなかった未来①
「別にずっと、普通に笑ってたと思うけど……」
咄嗟に口にした、嘘の言葉。
すると彼は真っ直ぐに僕の目を見つめたまま、困り顔で笑った。
「……嘘吐き。俺がどんだけお前の事、好きだと思ってんの?」
それからいつもみたいにベェと舌を出したかと思うと、もう一度僕の頭をそっと撫でてくれた。
「無理して笑えとは、言わないけどさ。
……お前が俺と一緒にいて、少しでも楽しいって思ってくれたら嬉しい」
僕をいつもオモチャみたいに扱う癖に、こういう時は大切な、まるで宝物みたいに優しく触れる彼。
最初の頃は正直それにかなり戸惑ったけれど、どちらもやっぱり同じ遼河くんで。
そして酷い目に遇わされるのはいつだって、彼が何かに嫉妬したり、彼を不安にさせた時。
少しずつ分かり始めた、彼の行動パターンと思考回路。
地雷はあちこちに埋まっているけれど、その位置をちゃんと把握し、僕がそれをうまく避けたさえ彼は無条件に愛してくれる。
本当はずっと、気付いていた。
彼はアソビなどではなく、本気で僕を愛し、求めてくれているのだと。
なのにそれを認めてしまうのは、やっぱりこわい。
何かを得る喜びよりも、僕は失う悲しみの方をよく知っているから。
「何?それ。
僕は普通に楽しんでるし、笑ってる。
遼河くんの、気にし過ぎじゃない?」
にっこりと微笑み、告げた。
眉間に寄せられた、深いシワ。
だけど彼はククッと可笑しそうに笑い、僕の頭を今度はくしゃりと撫でた。
「ホント大晴って、変なところで強情だよなぁ……。
でもまぁ、いいや。今日のところは、そういう事にしておいてやるよ」
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