109 / 132

厄日①

 もう前もって予定の確認をお互いする事すらないまま、週末は仕事終わりにふたりで食事をし、そのままどちらかの家に泊まるのが当たり前になった、いつもの金曜日。  その日は朝から、なんとなくついていなかった。  コンビニで売られているお気に入りのツナマヨおにぎりは僕の目の前で完売になってしまったし、ギリギリ間にあったと思ったのに目の前で電車のドアは無情にも閉められてしまった。  しかし本当にサイアクな事はこの後起こるだなんて、僕は考えてすらいなかったんだ。 ***  いつもは僕の食べたいモノを聞かれ、事前に彼が店をチョイスしてくれるのだけれど、この日は少しだけ勝手が違っていた。  最近よくふたりで行く居酒屋で、夕飯を済ませて店を出たタイミングで。  彼はちょっと、ワクワクした感じで聞いた。 「大晴。この後何処か、お前のオススメの店に行ってみたい。  行き付けとか、ねぇの?」  彼はいつもお洒落で、しかも美味しいお店ばかりを見付けてくる。  だからなんとなく負けたくなくて、僕は彼と再会する前、時々訪れていたショットバーを選んだ。  この店は一人客も多く、マスターの口数も多い方ではない。  こういう場所は貴重だから、僕のような陰キャには、本当にありがたい。  そのためなんとなく一人でいるのが寂しいなと感じる夜は、以前は時々訪れていた。  店内に他に客はほとんどおらず、がらんとしていた。  僕はマスターがカクテルを作ってくれるところを見るのが好きなので、カウンター席に座ろうと遼河くんを誘った。   「へぇ……ちょっと、意外なチョイス。  こういう店に、来るんだ?」  オレンジ色の薄暗い照明に照らされたスーツ姿彼は、いつも以上に色気が駄々漏れで、なんだか少し目のやり場に困ってしまう。  そしてそんな気持ちを見透かしたみたいに僕の顔を覗き込み、クスリと笑う遼河くん。  こういう時ちょっとだけ、踏んでいる場数の違いを感じてしまうのは、きっと気のせいなんかではないだろう。  ……それが少しだけ、悔しい。

ともだちにシェアしよう!