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突然の別れ①

 ただ無言の時間だけが、流れていく。  何か言わなくちゃと思うのに、何も言葉が出てこない。  しばらくして。……先に沈黙を破ったのは、遼河くんの方だった。 「やっぱ俺、お前に近付くべきじゃ無かったみたいだわ。  結局泣かせて、傷付ける事しか出来なかったし」  過去形で、言われた言葉。  それに戸惑い、彼の綺麗な顔面が自嘲的に歪むのを、ただぼんやりと見つめた。 「純粋で無垢なお前のカラダだけ無理矢理堕としても、ココロまでは手に入るはずなんて、無かったんだよな。  そんなのは最初から、分かってたはずなのに。……本当に、ごめんな」  それから遼河くんは哀しそうに笑い、僕の前髪をそっとかき上げると、もう一度優しく額に口付けた。 「もう二度とお前に付きまとうような真似は、しないから。  バイバイ、大晴。大好きだったよ。  短い間だったけど、本当に楽しかった。……ありがとう」  これは間違いなく、お別れの言葉だ。  それが分かっているはずなのに、まるで悪い魔法にでも掛けられてしまったみたいに、声が出せない。    ゆっくり彼が立ち上がり、ハンガーに掛けていたジャケットに手を伸ばした。  止めなくちゃ。そしてちゃんと、今度こそ彼に伝えないと。  ……僕も君が、本当は大好きだって事を。  だけど散々機械に犯され、疲弊しきった体は全くいう事を聞いてくれなくて。  静かにドアが開き、薄暗い室内に射し込んで来た朝の日の光。  僕は好きだと、伝える事も。  ……泣く事すらも出来ないまま、呆然と彼の後ろ姿をただ見送るしかなかった。

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