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僕じゃない特別①
悩むのが馬鹿らしくなるくらい下らない、彼の言動がありがたかった。
残っていたりんごジュースを一気に飲み干すと僕も席を立ち、椅子の背もたれに掛けていた薄手のスプリングコートを手に取った。
「とりあえず僕は今から、彼の家に行ってみるよ。
事前に連絡したら、逃げられちゃうかもしれないし」
既に嫌われていると、思っていたぐらいだ。
だから考えてみたら、今さらこわがる事なんて何もない。
「おぅ、武運を祈る!
……でもうまくいったとしても、俺も遊ぶ時は呼んでくれよな?」
ホント、子供みたいなヤツ。
僕はちょっと苦笑して、コクンと小さく頷いた。
すると知之は、満足げにニッと笑った。
***
もう仕事も終わり、帰っている頃だと思ったから、知之にも話した通り直接遼河くんの部屋へと向かった。
時刻は夜の、23時を少しまわったところで。
……素面ならこんな時間に、絶対にいきなり凸ったりしなかったなと、少し苦笑した。
でもこの勢いがなければきっと僕は、ずっとウジウジひとりで悩み続けていたに違いない。
だったらダメ元で、当たって砕けた方がいい。
……とはいえ実際に砕けてしまったら、史織に失恋した時以上のダメージを負う事になりそうだけれど。
彼女の結婚を聞かされた時は、すぐに遼河くんと再会したせいで、なんていうか……悩んだり、落ち込んだりする隙すら与えては貰えなかった。
そのため僕は史織ではなく、遼河くんの事ばかりを考えていたように思う。
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