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僕じゃない特別②

 だけど遼河くんを、失って。  ……誰か他の人となんていう気持ちにはとてもじゃないけれどなれなかったし、彼の代わりになるような人なんて、存在しないのだと思い知らされただけだった。  始めたのは、彼の方。  なのに終わりのタイミングも彼が勝手に決めるだなんて、やっぱり理不尽すぎる。  それに、そうだ!  生のしらす丼を食べに連れていってくれるという約束も、まだ果たされてはいないじゃないか。  そんな風に、息巻いて。  ……僕は無謀にも、彼の部屋のインターホンのボタンを押したのだけれど。  ……玄関のドアが開き、出てきたのは彼ではなかった。  当たり前みたいに彼の部屋にいたのは、背の高い綺麗な女性で。  僕は一瞬息を飲み、何も言えないままその場に立ちすくんだ。   「えっと……遼河の、お友達?」  少しハスキーな、女性にしては低めの声。  穏やかな口調で聞かれ、答えに困った。  だって僕と彼の関係は、いつだって曖昧で、不明瞭で。  ……セフレですら無くなった今、正解が自分でも分からなかったから。 「ごめんね、いま彼シャワー浴びてて……」    にこやかに笑って言われた瞬間、心臓をギュッと締め付けられたみたいに苦しくなった。  一瞬お姉さんや妹かも知れないとも考えたけれど、遼河くんには確か、兄しかいなかったはずだ。  という事は、つまり……。 「あれ?誰か、来た?」  部屋の奥から聞こえて来た、遼河くんの声。  そして彼が濡れた髪をタオルで拭きながら、その女性の後ろから顔を覗かせたものだから、つい泣きそうになってしまった。 「……大晴?」  僕の姿を目にした瞬間、彼の眉間に深いシワが刻まれた。

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