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僕じゃない特別③
何か言わなくちゃと思うのに、言葉がちゃんと出てこない。
代わりにポロポロと、瞳から溢れ出した涙。
すると遼河くんの濃灰色の瞳が、戸惑ったように揺れた。
どうしよう?こんな風に、泣くつもりなんてなかったのに。
色恋沙汰に疎い僕でも、さすがにこれくらいは分かる。
だって部屋に女性を呼んで、シャワーを浴びていたという事はつまり、そういう事 なのだろう。
半ばパニック状態に陥り、数歩後ずさって、そのままエレベーターに向かい駆け出した。
「え……ちょ、大晴!?」
彼の声が、背後から聞こえた。
でもきっと彼のココロはもう、僕にはない。
ならばこれ以上惨めな目に遭う前に、消えてしまいたい。
だけどまだアルコールの残る体は、思うように言うことを聞いてはくれなくて。
……僕は無様にも前のめりに、転倒した。
本当に、サイアク過ぎる。
しかしこれで、諦めも付くというモノだ。
……やっぱり彼との恋はもう、始まる前に終わってしまっていたのだから。
そう思い、のそりと自力で立ち上がろうとしたのだけれど。
……強く手を引かれ、立たされたから驚いて視線をあげるとそこには、遼河くんが不機嫌そうな表情で立っていた。
あぁ……またしても、迷惑を掛けてしまった。
だって既に彼には、恋人がいるというのに。
「なんで、来たんだよ?
……せっかく、手離してやったのに」
困惑したような、彼の声。
もう終わりだと言われたのに、やはりこんな風に勝手に訪れちゃ駄目だったんだ。
でも、何か言わなくちゃ。
……例え彼にとっての特別が、もう僕じゃなくなってしまったのだとしても。
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