127 / 132
好き③
彼の首元に手を回し、すりすりと頬に頬を擦り付ける。
すると遼河くんは、クスクスとくすぐったそうに笑った。
「それにしても。……まさかもう、他の女に現を抜かしてると思われるとはな。
しかも相手があの、クソ兄貴とか……」
恨みがましい口調で、言われた言葉。
だけどあんな状況で、しかもあんな美人が一人暮らしの彼の家にいたら、疑うなという方が無理な話だと思う。
……が遼河くんは、そうは思ってはくれなかったようだ。
「だって僕は、男だし。
大河さん、すっごく綺麗だったし……」
ボソボソと、自分は悪くないと訴える。
でも遼河くんの不機嫌メーターが、どんどん上昇いくのを感じる。
「やっぱお前、何も分かってないんだな。
……俺の気持ち、軽く見過ぎ」
今度は彼の指先が、僕の鼻をむぎゅっと摘まんだ。
「遼河くんの気持ちを、軽く見ているんじゃなくて。
……僕は自分に自信が、持てないんだ」
素直に、伝えた。
すると遼河くんは僕の鼻先から指を離し、再び額をピンと弾いた。
「ホントお前、ネガティブだよな?
でも、なら、そうだなぁ……俺の事は、どんな人間だと思う?」
彼が、どんな人間かだって?
そんなの、決まってる。
格好良くて、仕事も出来て、家柄もいい。
その上料理まで上手な、完璧超人。
知之も話していたが、もしかしたら宇宙人なのかも知れないと感じてしまうほどに。
「……僕にはもったいないぐらい、素敵な人だと思う」
この質問に対しては、即答する事が出来た。
すると遼河くんは不機嫌そうに眉根を寄せ、言った。
「一言、余計なんだよ。
僕にはもったいないぐらい、とかは要らない」
……やっぱりこの男、ちょっと面倒臭いかもしれない。
ともだちにシェアしよう!