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誰が為に、鐘は鳴る?

 青空に大きく広がる、入道雲。  あれからさらに月日が流れ、今はもう夏真っ盛り。  そして今日は、史織の結婚式当日だ。  ちなみに彼女の選んだ人は、プロレスラーをしているのだという。  そんな彼は言うまでもなく、めちゃくちゃガタイがよく、たくましい。  ……恐ろしいほどに、僕とは真逆のタイプ。  真っ白なウェディングドレスに身を包んでいると言うのに、僕に向かい、大きく手を振る彼女。  せっかく綺麗なドレスを着ているのに、豪快に口を開けて笑うそんな史織の事が大好きだった。 「本当におめでとう、史織。  お幸せにね」  心から笑顔で告げる事が出来たのはきっと、遼河くんのお陰だ。 「おめでとう、君下。  俺のためにもホント、末長くお幸せに」  遼河くんの言葉に、不思議そうに首をかしげる彼女。  だから僕はちょっと慌てて、こっそり彼の足を蹴っ飛ばした。 「おめでとう、史織ちゃん。  でもなんで、遼河までいんの?  お前ら、仲良かったっけ?」  モグモグと、出された食事を頬張りながら知之が聞いた。  確かに、言われてみたら。  ……知之はともかく、なんで遼河くんまで呼ばれているんだろう?  しかしその疑問は、あっさり解けた。 「なんで、って……。  だって彼の事を紹介してくれたの、早乙女くんだし」 「……へ?」  思わず、変な声が出た。  その後彼女は挨拶回りに行き、知之は女の子達とのおしゃべりに夢中。  そのため僕は自然と広い会場内、遼河くんと二人きりになってしまった。  理想の相手に出逢えたと、話していた史織。  そして遼河くんは、マッチングのプロだ。  ……こんなの、疑問に思うなという方が無理な話だと思う。 「ねぇ、遼河くん。  ……いつから僕は、君の手のひらの上で転がされてた?」  じとりと彼の顔を睨み付け、聞いた。  すると遼河くんはニヤリと笑い、答えた。 「人聞きの、悪い。  ……これも全部、運命じゃね?」  こっそりと、皆からは死角になる絶妙な角度で。  ……彼の唇が、文句を言ってやろうとした僕の口に軽く触れた。            【…fin】

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