3 / 102

1-3

なんとなくこのまま宿泊先のホテルに戻りたくなくて、コンビニでビールを数本買うと付近の公園に立ち寄った。 昼間は子供達の声で賑わっているだろうこの場所も、流石に今はひっそりと静まり返っている。 等間隔に置かれた街灯の明かりだけが、煌々と辺りを照らしていて壮馬は備え付けのベンチに腰を下ろすとプルトップに指を掛けた。 試合期間中、飲酒は絶対にしないと決めていた壮馬だったが今日ばかりは飲まずにはいられない。 ビールを煽ると深い溜息が洩れた。どうして今、だったんだろう。別れ話ならそれ以前でも出来た筈だ。今年やっとFA権を獲得し、同じ球団に入れた。 ようやく大きな舞台でまたバッテリーを組めるかもしれない。一緒に日本一の称号手に入れようと喜んでいた矢先だったのに。 祥太郎にもう直ぐ子供が生まれる事は知っている。出産間近の妻を目の前にして、ようやく身辺整理をする気になったと言う事だろうか。 自業自得だとわかってはいるもののやるせない思いに駆られて、目頭が熱くなる。 「ヘイ、ソウマ。ビールはもう少し美味そうに飲むもんだぞ」 ふと、頭上に影が差し壮馬は驚いて顔を上げた。そこには同じコンビニの袋をぶら下げたリチャード=ブラウンの姿があった。 彼は日本での功績が認められ監督に就任したばかりの、今日本で一番注目されるチームの長だ。元々、愛嬌もよく国民に愛されていた選手だった彼は今季その手腕が期待されている。 風呂上がりなのか金色の髪が濡れていて、月明かりが透けてキラキラと輝いている。 スウェットパンツとシャツに上着を羽織っただけのラフな格好は新鮮で、なんだか不思議な気分だ。

ともだちにシェアしよう!