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「あの、どうして僕を誘ったんですか?」 彼が現役時代、何度か祥太郎を交えての食事に誘われた事もあったがこうやって二人で話すのは初めての経験だ。 「酒は、一人で飲むより他の誰かと話しながら飲む方が美味いに決まってるからな。たまたま外に出たら、お前がこの世の終わりみたいな顔して座ってたから声掛けたんだ」 笑いながらプルトップに指をかけ、プシュッと音をたてるとリチャードは美味そうにビールを煽った。 「何があったのかは知らんが、悪酔いして試合に出れないなんて事になったら困るからな」 「なっ!? いくらなんでもそんなに飲みませんよ!」 「まぁまぁ。ソウマはウチのチームの要だからな。お前が集中力を欠いた状態じゃチームとしても困る」 「……」 あの時、自分がどんな表情をしていたかなんて知らない。だけど、落ち込んでいるとわかっていて声を掛けてくれた。移籍して来たばかりの自分にも気にかけてくれるその気配りが素直に嬉しかった。 「取り敢えず、乾杯しようぜ」 人好きしそうな笑みを浮かべたまま、缶を差しだされ壮馬は渋々とそれに自分のそれを重ねた。 それから二人でささやかな乾杯をして、目前に控えた日本シリーズへの意気込みや日本一に対する思いを、時には雑談も交えながら語り合った。 リチャードは壮馬に気を遣ってか、祥太郎の名前を一切出さずに会話を合わせてくれる。 もちろん今回の件について触れてくる事は無かったし楽しく会話をしようと言う意図が伺えたので壮馬も敢えて何も言わなかった。 だが、時間が経つにつれてその事実が心苦しく思え、だんだんと胸の奥が重く沈んでいく。

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