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「ほら、手が震えてるぞ」
耳の中に直接吹き込まれる声にビクリと肩が跳ねる。
腰に手を置いたまま見上げると、リチャードは「どうするんだ?」と言わんばかりの表情で笑っていた。
余程自分に自信があるのだろうか? その余裕そうな表情にギリギリまで保っていた理性なんて簡単に吹き飛ばされそうになってしまう。
「……男を相手に出来るんですか?」
壮馬は目を逸らさずに尋ねた。
「もちろん」
「……奥さんや彼女は?」
失恋した直後にまた不倫関係になるなんてまっぴらごめんだ。恋愛をする気なんて今のところ無いが、トラブルになるのだけは極力避けたい。
「んー、彼女はいない。随分前に別れたっきり、今はフリーだ。だから、安心しろよ」
そう言ってフッと微笑んだ瞬間に見せた雄の目にゾクっとする。今まで見た事の無い、情欲を孕んだ瞳が壮馬を射抜く。
この瞳に捕まって逃げられる人間は居ないんじゃないのかな、なんて思うくらい妖艶で男臭い視線に、壮馬の中でのハードルが下がった。
「……ショウタロウ以外との関係は?」
「あるわけ無いじゃないですか。そんなの」
「へぇ……一途なんだな」
リチャードの大きな手が右肩に触れ、そこから滑るように壮馬の身体のラインをなぞってゆく。明らかに性的なニュアンスを含んだ手の動きに、壮馬の身体は硬直した。
今まで、彼以外は全くと言って興味がなかった。それなのに今、目の前に居る彼を見てドキドキしている自分が居て戸惑いを隠せない。
誰とでも寝るような軽い男では無いはずなのに、彼の指先に高揚し抗えない自分が居る。
顔を上げると、リチャードは口の端だけで笑って見せた。
胸の痛みや、彼への思いがそう簡単に消えるとは思わない。だけど、一時期でもこの胸の苦しさを忘れる事が出来るのならば――。
愛だの恋だの騒ぐ年齢はもうとっくに過ぎているし、祥太郎とはもう終わったのだから浮気ではない。
あぁ、そうだ。きっと今夜は飲みすぎたから正常な判断が出来なくなっているんだ。
酔った勢いでつい。と、言う奴に違いない。きっとそうだ。そうに違いない。
相手も、自分も酔った上での行為なのだから気負う事もないか。
「どうするんだ?」と、リチャードが壮馬の髪を梳きながら艶めいた声で尋ねてくる。
答えなんてもう決まってるじゃないか。
返事をするのは憚られたので、その代わりに壮馬は肩の力を抜いてそっと目を伏せた。
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