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戸惑いと葛藤と

午前中にミーティングを終え、試合会場となるドームへと移動を始める。 普段なら移動時は当たり前のように祥太郎の隣に腰掛ける壮馬だったが、流石にそう言うわけにもいかず、通路を挟んで反対側の席へと座った。 昨夜から色々あり過ぎて、どんな顔をすればいいのか解らないのだ。 朝は時間ギリギリで、思い返す暇も余裕も無かったが、ぼうっとする時間が出来ると途端に頭の中にリチャードの姿が浮かんでくる。 あの時、リチャードの誘いを断ることだって出来たはずなのに、壮馬は完全に流されてしまった。 引き返せるチャンスはいくつかあった。それなのに強く拒絶できなかったのは、祥太郎と別れたばかりで寂しかったからだ。言葉は悪いが、心に空いた穴を埋めるためにリチャードを利用したと言ってもいい。 自分はけして冒険するようなタイプでは無いし、恋愛経験と呼べるものだってほとんどない。その場の体育会系的なノリで寝るような事なんてしたことなかった。 まして相手は、これからもずっと一緒に過ごすチームの監督だ。今日から日本シリーズが始まろうと言う時に、我を忘れてセックスに溺れてしまうなんて、昨夜の自分は完全にどうかしていた。 壮馬は、椅子に深く腰掛けて、気分転換にと開いた本で顔を覆い隠す。 リチャードに迫られた時、頭では拒みながらも、男らしくて少し強引な性的魅力を垂れ流しにしている彼に不覚にも欲情してしまった事実は否定しがたい。 彼と寝てみたいと、本能がそう求めていた。 その感情に流されるまま、結局受け入れてしまったのだ。 今まで、抱きたいと言う感情はあっても、自分が逆の立場になると言う発想は微塵も無かった。まさか自分が抱かれる側に回る日が来るだなんて……。 壮馬は昨夜、今まで経験したことのない感覚を味わった。呼吸が出来なくなるほどの激しい行為に驚き、戸惑ったが強烈な快感も覚えている。 リチャードに求められたこと自体は嫌ではなかった。むしろ、自分の中にあんなに激しい性衝動があったのかと驚くほどに興奮した。 普段なら絶対に言わない言葉を言わせられたり、自分から淫らに腰を振ったり……。思い出すとバスの中にも関わらず叫び出してしまいそうになる。

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