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戸惑いと葛藤と 2
「……隣、いいか?」
突然声をかけられビクッと肩を震わせながら顔を上げると、そこにはリチャードが立っていた。
「っ、ど、どうぞ」
普段なら、一番前の席に一人で座るのに、今日に限って何故わざわざ隣に?
そう思ったが無下に断ることも出来ずに、場所を開けると彼はゆっくりとした動作で隣の座席に腰掛けた。
ふわりと鼻腔を擽るフレグランスの香りが昨晩の行為を嫌でも思い出させてしまい、壮馬は小さく息を飲むと、慌てて窓の外に視線を移した。
「どうかしたか?」
「え、いえ、別に……」
壮馬は動揺を隠すように手に持ったままだった本を膝の上に置き、さっきまで読んでいたページを開いた。
しかし、文字は頭に入らずにただ上滑りしていく。
どうしよう。何か話題を……。そう思うのだが、上手い言葉が出てこない。
いつもはどうやって会話をしていたのか……。何だか耳が熱い。
壮馬がちらりと横目で見ると、リチャードはじっとこちらを見つめていて、視線が合うなりフッと笑われた。
「フッ、そんなに意識しなくても、流石に人前では何もしないさ」
「べ、べつに、僕は……!」
「そんなに真っ赤な顔をしておいて説得力が無いな」
クスッと笑いかけられて、壮馬はグッと言葉に詰まる。 酔った勢いだったとはいえ、あんな事があったばかりで、平常心でいろと言う方が無理な話だ。
「そんな可愛い反応されたら、期待に応えたくなってしまうじゃないか」
「ちょっ、何言ってるんですか! やめてください」
膝をするりと撫でられ、うっかり本を落としそうになった。
ギョッとして顔を上げると、アイスブルーの瞳とぶつかる。
その眼差しは昨夜と同じ熱を帯びていて、壮馬は思わず息を飲んだ。
どうしてそんな目で僕を見るんだ。
そんな事を言おうとしたけれど、口を開く前にリチャードの顔が近づいてきて壮馬は咄嗟に手の平でリチャードの顔を押し返した。
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