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戸惑いと葛藤と 3
「なんなんですか」
「ん? キスして欲しそうな顔してたから」
「無いです。そんな顔するわけ無いでしょう?」
冗談なのか本気なのかわからない言葉に、壮馬は呆れたような視線を向ける。
するとリチャードは小さく笑って壮馬の手を取ると、そのまま指を絡めてきた。
まるで恋人繋ぎのようなそれに、ドキリとする。
慌てて手を振り払おうとするが、思ったよりも強く握られているせいか、振り解くことが出来ない。
抗議しようと口を開こうとした瞬間、リチャードが壮馬の手を引き寄せて手の甲にチュッと唇を落とした。
驚いて身体を引くが、狭い車内ではそれも叶わず、今度は指先にも口付けられる。
その仕草があまりに艶っぽくて、不覚にも鼓動が高鳴ってしまった。
指先を口に含みながらジッとこちらを見詰めてくる様子に、顔がどんどん熱くなっていく。
こんなの、反則だろう。
リチャードの妖しい視線に、壮馬の心臓はドクンドクンと激しく脈打っていた。
「ち、ちょ……っ」
「ん? どうした? 顔が赤いぞ?」
「手、離して……下さい」
「今更純情ぶるなよ。昨日、あれだけした仲なのに」
からかうような口調にカァッと頭に血が上る。
あんなのは、ただの性欲処理だ。確かに気持ち良かったけど、あれは全部酒のせいなのだ。壮馬の中で、昨夜のことはそう言う事になっているのだ。
「これから試合が始まるって時に、何してるんですか! 止めてください」
「少しくらい興奮してた方がいい結果が残せるって聞いたことがあるな」
「そんなわけ無いでしょう!? 何言ってるんですか」
揶揄っているのか本気なのか判断しづらいが、何を考えているのかと、壮馬はリチャードを睨みつける。
「そんな怖い顔するな」
彼は苦笑しつつ、今度は手の甲に口付けると絡めていた指を解き、ゆっくりとした動作で身体を遠ざけた。
離れていく体温に少しだけ寂しさを感じる自分に困惑するが、これ以上傍に居れるわけが無い。壮馬は視線を逸らすと本を開き直し、再び窓の外へと視線を向けた。
しかし、困ったことに、本を読んでいるのに内容は一切頭に入ってこなかった。
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