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戸惑いと葛藤と 4
日本シリーズは全7戦あり、今日は5日目。リチャード率いる東京ウォリアーズは、リーグ戦を勝ち上がって来た宿敵、ジャッカルズとの3連戦だ。
2勝2敗と互角の戦いを繰り広げており、今日の一戦が勝敗の行方を決める大事な一戦となっている。
そんな中、壮馬はドーム内にあるブルペンでマスクを被り、今日先発予定の若きエースでもある祥太郎の投球練習に付き合っていた。
「ちょっと! 何やってるんだよ。エースの君が集中力を欠いていたら、チームが締まらないだろ?」
いまいち制球に覇気がない事を悟って祥太郎に声をかけると、彼は一瞬ハッとしたような表情を浮かべ、その後すぐに「悪い」と謝った。しかし、その表情はどこか悲しげで、彼の調子があまりよろしくないことがはっきりと読み取れる。
「……何かあったの?」
「いや……ちょっとな……」
言葉を濁すような返答に壮馬は首を傾げる。悩み事でもあるのだろうか? ならば相談に乗ってあげたいところだけど、流石に今それをしている余裕はない。
「言いたくないならいいけど、もう少し気を引き締めて。優勝まであと一歩の所まで来てるんだ」
プロ野球で活躍し、一緒に優勝する。それは、小学生の頃からの二人の夢だった。
ずっと、一緒に駆け上がって来た舞台。あと少しで夢に手が届きそうなのに。
「わかってる。わかってるけど……。なんつーか……」
歯切れの悪い祥太郎の態度に、壮馬は眉を寄せた。
「何?」
「いや、思ってたより壮が元気そうだったから、良かったっつーか、拍子抜けしたっつーか……」
「……」
祥太郎の言葉に、壮馬はピクリと肩を震わせた。
「昨日、大丈夫だったか? ほら、なんか色々あったし……」
言葉を濁す祥太郎に、壮馬は思わず苦虫を噛みつぶしたような表情になった。
大丈夫も何も、あんなことがあったと言うのに、全然大丈夫なわけがない。でもそんな事言えるわけもなく……。
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