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戸惑いと葛藤と 5

お陰様で。何も問題ないよ。ていうか何? 僕が落ち込んで戦意喪失してた方が良かった?」 壮馬は震えそうになる声を必死に堪え、奥歯をグッと噛みしめた後、思わずポツリと嫌味を溢しハッとして口を噤む。 正捕手の自分が試合直前にチームの要である投手のモチベーションを下げてどうする。 一瞬そう思ったが、そもそも一連の流れを作ったのはこの男であると言う事実を思い出して、壮馬は溜め息をついた。 「壮! 俺は別にそう言う意味で言ったわけじゃ……」 「そう言う意味じゃなかったら何? 前々から思ってたけど、君って本当にデリカシー無いよね」 「悪い、そんなつもりじゃ……。ただ、壮が元気になって安心したっていうか……」 「別に君に心配されなくても僕は大丈夫だよ。君こそ調子が悪いなら監督に言ってベンチに下げてもらったら?  やる気の無いエースなんて迷惑以外の何物でもないよ」 冷ややかな声がブルペンに響く。痴話げんかはいつもの事で、チーム内でも見慣れた光景なだけに二人を止めるものは誰も居ない。 また何時ものように試合になったら意気投合して何事もなかったのように試合に臨むのだと誰も気にも留めていない。 今までの二人とは違うのだという事を知っているのは、自分達とリチャードだけだ。 俯いて何も言わなくなった祥太郎を見ていると、段々とムカムカして来た。 なぜ食事の帰りに、人の沢山行き交う街中で立ったまま別れ話をされなくてはいけなかったのか。 どうせ別れると決めていたのなら、日本一になった後からでも遅くは無かったはずだ。 それなのに、こんなタイミングで……。 祥太郎は後先なんて考えられない短絡的思考の持ち主だから、きっと壮馬がどう感じるかなんて想像もしていなかったのだろう。 もしかしたら、昨日の別れ話だって、そこまで深く考えていったわけでは無いのかもしれない。 このまま此処にいたらもっと酷い言葉を浴びせてしまいそうになって、壮馬は眉間に深い皺を寄せた。握った拳がブルブルと震える。 「……っ、ごめん。ちょっと言い過ぎた」 壮馬は震える声でそれだけ言うと、祥太郎から逃げるようにその場から離れた。

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