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戸惑いと葛藤と 6
足早に薄暗い廊下を歩いて、トイレの個室へと逃げ込むと、壮馬は震える手で蛇口を捻り冷たい水で乱暴に手を洗った。
「なにやってるんだ僕は……」
溜息と共に吐き出した言葉は静かな空間に思ったよりも大きく響いて益々自分を惨めな気持ちにさせた。
込み上げそうになる嗚咽を何とか堪え、鏡に映る自分の姿を目に焼き付ける。
酷い顔だ。爽やか王子と呼ばれていたあの頃に自分とはかけ離れすぎている。
一体、どこでボタンを掛け違えてしまったのだろうか?
祥太郎が結婚しても諦めきれなかったあの夜から? 祥太郎から彼女が出来たと報告を受けた日? いいや、多分もっと前からだ。ずっと彼だけを見て、憧れて、追いかけて、彼のようになりたい。側に居たいと願っていた。それだけで満足していればきっとこんな思いをする事も無かったんだ。
目頭がじわりと熱くなって、鼻の奥がツンと痛んだ。込み上げる思いが涙となって溢れ出しそうになり慌てて拳で目を押さえつけた。
唇を噛みしめ耐えていると、急に扉が開いて、ひょっこりとリチャードが顔を出す。
あ! と思ったが鏡越しに目が合ってしまい、壮馬はバツが悪そうに目を逸らした。
「……大丈夫か?」
「すみません。コンタクトが少しずれて痛かったので直していただけです」
壮馬は強がって出来るだけ平静を装う。リチャードには昨夜散々可笑しなところを見せてしまったが、これ以上頼るわけには行かない。
迷惑を掛けたくなくて、壮馬はそそくさとトイレを出ていこうとした。しかし、リチャードはそんな壮馬を逃がすまいと腕を掴んで引き留める。
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