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戸惑いと葛藤と 7

「ちょっと、離してくださ……」 「そんな顔して何処に行くって?」 「……ッ」 胸元に押し付けられて、そのままギュッと抱きしめられふわりと漂うフレグランスの香りに、壮馬は不覚にもドキリとしてしまった。 昨夜、嫌と言うほど感じさせられた香りが鼻腔を擽り胸がグッと苦しくなる。 すぐにでも突き飛ばして、距離を取りたいのに。そうしなければいけないと言うのに、逞しい腕に抱き留められていると何故かそれが出来なくて、壮馬は息を飲んだ。 「僕なら平気ですから。もうすぐ試合でしょう? 行かないと……」 「少し黙って。勿論試合も大事だが、今はお前の方が心配だ」 「本当に、大丈夫ですって」 これ以上は迷惑を掛けるわけにはいかない。 「強がるな。泣きたいときは思いっきり泣けと昨日も言っただろう?」 そう言いながらそっと背中を撫でられて、優しい声に視界が歪んだ。 人前で泣くつもりなんて無かったのに、いま優しくされたら止められなくなってしまう。 感情のコントロールが効かなくなって大粒の涙がぽろぽろと溢れだした。こんな惨めな姿誰にも見られたくなかったのに――。 「どう、して……」 「ん?」 どうしてこの人は、こんなに優しくしてくれるんだろう。これは自分自身の問題で、完全プライベートの事だ。 ほおっておいてくれたらいいのに。そう思うのに、どうして突き放せないんだろう。 「どうして、放っておいてくれないんですか……」 「放っておけるわけが無いだろう」 「だから、どうして……っ! 僕が貴方の率いるチームの一員だから? だから、僕の事を気にかけるんですか?」 「違うと言ったら嘘になる。だから否定はしない。だが、それだけじゃない。俺が壮馬を放っておけないのは……」 そこで言葉を詰まらせたリチャードに、壮馬は訝しげな視線を向けた。その先の言葉は? なんて、続きを期待しているわけではないのに、何を言う気なんだろうと少しだけ身構えた。けれど、リチャードは困ったように眉を寄せただけで、特に何かを言うわけでもなく、ただ抱き締める腕に力が入っただけだった。

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