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戸惑いと葛藤と 9
ジャッカルズとの試合は、最初の立ち上がりこそピッチャーである祥太郎との足並みが揃わず、先制点を許したが、持ち前の冷静な判断力と4番バッターとして培って来た経験を存分に生かした堅実なプレーで徐々に調子を取り戻し、逆転勝利を収めた。
「たく、可愛い顔してんのに相変わらずえげつないバッティングしてやがるな。壮は……。一番敵に回したくねぇタイプだよ全く」
試合後、壮馬がロッカールームで着替えをしていると、不意に祥太郎が壮馬の頭をグシャグシャに撫でてそう言った。
何時もと全く変わらないその態度に、壮馬は眉を顰める。「昨日」あんな事があったというのに、どうしてこの男はいつも通りなのだろう?
「やめてよ。セットが乱れるだろ」
パシッと軽く音を立てて祥太郎の手を払い除け、ため息交じりに距離を取る。
「たく、そうツンケンすんなって。勝負には勝ったんだし、仲良くしようぜ」
「……」
全く、この男にはデリカシーと言うものは無いのだろうか? それとも、自分が気にしすぎているだけなのだろうか?
一方的に関係を終わらせた相手に対して、何事も無かったかのように振舞える祥太郎の神経が信じられない。
もしかしたら、ギクシャクした空気にならないように敢えていつも通りに接しているのかもしれないが……。
「壮、この後は空いてるか? 昨日食事に行けなかったし、今日この後何か予定でも入ってなければ夕食一緒にどうだ?」
壮馬の気持ちなど全くわかっていないのか、それともワザと気づかないふりをしているのか、祥太郎は試合が終わった後も平然といつも通りの言動を繰り返している。
「僕は……」
「お、いたいた。なんだ、まだ着替えて無かったのかソウマ」
壮馬が口を開きかけたところで、リチャードがひょっこりとドアの隙間から顔を覗かせた。
「悪いな、ショウタロウ。俺が先にソウマを誘っていたんだ。だから夕食は他のヤツを誘ってくれ」
「えっ、ちょ……っ」
戸惑う壮馬の腕を引き自分の方へと引き寄せながら、リチャードが祥太郎へウィンクを投げて寄越す。
急に引き寄せられ、バランスを崩しかけた壮馬は慌てて彼の腕を押し返した。
背中から抱きしめられるような形で身体を押し付けられ、リチャードの熱や匂いを感じると、頭の片隅に追いやっていた昨晩の事を思い出してしまいそうになり、壮馬は焦った。
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