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戸惑いと葛藤と 10

祥太郎は一瞬驚いたように目を見開き、どういうことだと言わんばかりの視線をこちらに向けて来た。まさか自分が断られるとは思ってもみなかったのだろう。 「お前ら、いつの間にそんな仲良くなったんだ?」 祥太郎の問いかけに、壮馬はバツが悪そうに口を噤んだ。別に仲良くなったわけでは無いので、そんな事を聞かれても返答に困る。 「ソウマとは前々からサシ飲みする約束をしていたんだ。そう言う事だから、悪いなショウタロウ」 そう言って、リチャードは壮馬の肩に腕を回したまま、祥太郎に見せつけるように身体を密着させてきた。その仕草に、どうしても昨日の事が思い出されて壮馬は頬が熱くなるのを感じる。 「か、監督……っ近いですって」 慌てて身を引き、リチャードの腕から逃れようとするが、それを拒むように彼は壮馬の肩を掴んだ手に力をこめた。 祥太郎の視線が痛いくらいに突き刺さる。だが、彼がそれ以上追及してくることは無く、肩を竦めると「しゃーねぇ。また誘うわ。じゃぁな」 と言って、さっさとロッカールームを出て行ってしまった。 「っ、何なんですかっ! 祥太郎君が誤解したらどうするんですかっ」 「誤解されて困ることは何も無いだろう? アイツとはもう終わったんじゃなかったか? 飯食いに行くくらいは普通の事じゃないか」 リチャードは悪びれた様子もなく平然と言ってのける。確信があって邪魔をしてきたようだが、それにしてもやり口が強引すぎる。 「僕は……っ」 「酷い別れ方をするような男に操を立てる必要が何処にある?」 確かに一理あるが、昨日の今日でもう他の男に乗り換えたのかと誤解されるのは嫌だった。祥太郎と付き合っていた時の壮馬は二股など掛けたことは無いし、純粋に彼だけを見ていた。 だが、既成事実がある以上祥太郎に何を言われても仕方がない。 先ほどの祥太郎は、珍しく動揺していた。付き合っている時は自分が鬱陶しいくらいにくっついていたから、他の男と壮馬が食事に行くと言う行為が信じられなかったのだろう。 祥太郎をディスるつもりは無いが、何時も強気で自信に満ち溢れている彼のポカンとした顔を思い出したら、じわじわと笑いが込み上げてきた。 別れを切り出しても平然と話しかけて来るのは、まだ自分の事が好きだろうと言う確信めいた自信の表れだ。 リチャードの煽るような行動には少々ハラハラさせられたが、祥太郎との関係をハッキリさせるためには、これでよかったのかもしれない。

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