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怒ってる……?5
どれくらいそうしていたのだろうか。不意に静かな部屋の中にノックの音が響き渡り、壮馬は閉じていた目蓋をゆっくりと上げた。
「……はい?」
「俺だ」
その聞き覚えのある声に、壮馬の眉がピクリと跳ねる。こんな夜更けに何事だろうか? たった今、一瞬でも会いたいと思ってしまった相手が瞬時に浮かんで、壮馬は戸惑った。
一瞬、聞き間違いかとも思ったが、再び声がしたので、ゆっくり身体を起こすと躊躇いがちにドアを開ける。するとそこに立っていたのは案の定、リチャードその人だった。
「何故? ……って顔をしてるな」
「そりゃそうですよ。 こんな夜更けになんなんですか」
寂しいと思ってしまった気持ちを悟られたくなくて出来る限り平静を装いながら答える。
「まぁ、そう冷たい事を言うな。めでたい日に一人寂しく枕を濡らしているんじゃないかと思ってきてやったのに」
「っ、別に頼んでませんし。だいたい、そんなわけ無いじゃないですか。日本一になれたって言う余韻に浸っていた所です。余計なお世話ですよ」
図星を突かれて思わず動揺してしまった壮馬は、そのままリチャードに背を向けて部屋の中へと戻ろうかと踵を返した。だが、それを読んでいたのかドアの隙間に足を挟んで邪魔をしてくる。
「……っ、ちょっと! なんなんですか」
「俺が一人で寂しいんだよ。オッサンの戯れに付き合ってはくれないか?」
「……そう言う事は、その辺にあるガールズバーにでも行ってまぎらわしてく
ればいいでしょう? 天下のイケメン監督がお忍びで来たとなれば女の子たちも喜ぶんじゃないですか?」
「俺はソウマと一緒に過ごしたいんだ」
「な……ッ」
ストレートな言葉と意味深な態度に思わず顔が熱くなる。この男はどうして、自分に対してこうも簡単に甘い言葉を吐いてくるのだろうか。
ダメか? なんて首を傾げて聞かれ断る口実も思いつかなくて、壮馬は緩くため息を吐くと仕方なくリチャードを部屋へと招き入れた。
「……どうぞ。言っておきますが……。監督の部屋程広くはありませんからね?」
「あぁ、構わないよ」
招き入れるや否やリチャードは嬉しそうな顔をして辺りを見渡した。
「へぇ、案外綺麗に使っているんだな。几帳面で真面目さが部屋に現れてい
る」
言いながらソファにどっかりと腰を落としおいでと手招きしてくるから、仕方なく拳二つ分ほど距離を開けて彼の隣に腰を下ろした。
「荷物を散乱させていると帰りが大変になるじゃないですか」
「なるほど。それもそうだな」
言いながらリチャードは徐に手を伸ばし壮馬の頭を撫でてきた。
「ち、ちょっと! なんなんですかっ」
「こうしてると落ち着くんだよ」
なんて言いながらするりと腰を引き寄せスンスンと首筋に顔を埋めてくるから、壮馬は慌てて身体を離そうとしたが逆にきつく抱きしめられてしまい身動きが取れなくなってしまった。
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