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伝わらない 4

「……ソウマは天然の男殺しだな」 「何言って……」 顔を上げると、リチャードは困ったような表情を浮かべたまま小さく溜息をついていた。 「全く、そんな風だから悪い虫が寄って来るんだ」 (悪い虫って……) 一体誰のことを言っているんだろう? 不思議に思って眉根をひそめると、リチャードはまた大きな溜息をついた。 そしてそのまま抱き寄せられ、おでこにちゅっとキスが落ちてくる。 「大袈裟ですよ監督。僕なんかをどうこうしたい人なんているわけ無いじゃないですか」 「何が大袈裟だ。無自覚にもほどがあるだろ」 リチャードが呆れたような声を零し、軽くおでこを小突かれた。 「ソウマはもっと自分の事を知った方がいい。お前を狙ってる奴が大勢いるとは思わないか?」 「女の子じゃあるまいし。そんな特殊な男性が多いはずないでしょう?」 全く、何を言い出すかと思えば……。自分が女性ならまだしも、男を襲いたいと思う輩がそんなにいるはずが無いじゃないか。 しかも男の自分が襲われるなんて……。 「はぁ……。これは要教育が必要だな」 「はい?」 壮馬が首を傾げながらリチャードを見上げると、彼は「こっちの話だ」と言って微笑むと、ぽんぽんと頭を撫でて来る。 「まぁいい。取り敢えず今日はもう寝るぞ」 そう言いながらベッドにごろりとリチャードが寝転がる。 いくら広めのベッドが準備されてるとはいえ、男性二人が横になるには少々手狭だ。 自分の部屋へ帰ればいいのに、どうやら彼は戻る気はないらしく、腕を伸ばして此処に頭を乗せろと促してくる。 (まぁ、いいか……) 相変わらず、読めない人だ。 壮馬は呆れたように溜息をつくと、仕方なくリチャードの腕枕に頭を乗せて目を閉じた。 彼の腕に頭を乗せていると、不思議と落ち着いた気持ちになれる。 恋人でもない相手に対して思うことではないと思うが……。 (少しだけ……) 微睡みの中で壮馬はリチャードの背中に手を回し、きゅっと抱きしめると深い眠りに落ちていった。

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