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寂しい 3
「そう言えばお兄ちゃん、本当に初詣行かないの? バッティングセンターも?」
年末ぎりぎりまで入っていたテレビ収録も全て終え、今年も残り僅か。
年末恒例の歌合戦 black or white を何気なく家で眺めながら、テレビに映る審査員の中に祥太郎の姿を見付け、6歳年下の妹が何気なくそう尋ねてきた。
毎年、年明け早々祥太郎と共に初詣に行き、その足で近所のバッティングセンターへ向かって、二人で何本ホームランが打てるのかを競い合うのが昔からのルーティンになっていた。
それは、もはや家族公認のイベントであり、今年もまた同じように過ごすのだろうと思っていた妹の蛍が、困惑した表情で壮馬を見上げている。
「あぁ、流石にもう祥太郎君には家族がいるわけだし、何時までもべったりと言うわけにはいかないだろう?」
「でも、祥クンが新婚さんの時も結局行ってたじゃない。皆が止めといたほうがいいって言ってるのに、これをやらないと一年が始まらないとか何とか言ってさ。二人とも野球馬鹿全開だったじゃん」
「ハハッ……」
我が妹ながら中々鋭い所を突いて来る。祥太郎との関係は家族にも言っていない。勘の鋭い妹は何か薄々気付いていそうだったが、聞かれなかったので敢えてこちらから話す必要も感じなかった。
まさか、「別れたからもう行かなくなった」とは流石に言いづらく、壮馬は苦笑いを浮かべた。
確かに蛍の言う通り、祥太郎と二人で行動するのはある意味自分の恒例行事となっている。
だが、今年は少し違う。祥太郎には新しい家族が出来たし、二人の関係は通常の親友と言うポジションにおさまったのだ。
きっとこれから、大晦日も正月も祥太郎は家族と一緒に過ごすのだろう。
自分だけが特別なんて日はもう二度と来ない。
「ま、ようやく祥クン離れしたって事か。お兄ちゃんもいい年齢なんだから彼女とか作ればいいのに」
「僕はいいよ。そう言うのに興味ないんだ」
「興味ないって……。勿体ないなぁ。王子様みたいなルックスしてて、好感度は常に球団1位。 お兄ちゃんに声掛けられて断る女の子なんていないんだから選び放題じゃん」
「選び放題って、そんな見境の無い……」
苦笑いで答えると、蛍はそれ以上深く言及するのを諦めたのか、やれやれと肩を竦めてみせてテレビ画面に視線を戻した。
つい先ほどまでやっていた歌合戦も終わり、除夜の鐘が画面いっぱいに映し出される。
(監督は今、何してるかな……?)
今年一年を振り返る出演者たちの声を聴きながら、ふと、リチャードの事を思い出す。
彼が居る所とは約14時間ほどの時差があるから、今はまだ朝の10時くらいだろう。
流石にまだ寝ているとは思い難いが、自宅にいるはずだし意外と朝が弱かったら可愛いな。なんて、本人には口が裂けても言えないけど。
電話してみようか? いや、でもなんて? 別に用事があるわけでもないのに、もうすぐ新年が明けるからと言う理由だけで電話するなんて、声が聞きたかったのだと勘違いされたら困るし……。
悶々としつつ何とはなしにスマホを触って、そんな事を考えていると、隣から視線を感じたような気がした。
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