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さびしい 11
これ以上言っても無駄だろうと察した壮馬は、怒りたい気持ちをグッと堪え大股で停めているへ向かって歩き始めた。
「そう言えば、行き先は? 僕、監督の自宅を知らないので案内してもらえれば助かります」
「なんだ。折角会えたのにつれないな……。行き先は、そうだな……ソウマの家に行ってみたいなぁ」
「は?」
この男は何を言っているのか。正月早々呼び出したと思ったらアポなしで家に寄りたいだなんて。
「あの……っ、僕の家に来たって面白くもなんともないと思いますよ? 散らかってますし……」
「なんだ。俺に見せたくないものでもあるのか?」
「いえ。そう言うわけでは……」
車のドアを開けて、彼の荷物を後部座席へと放り込む。別に見せたくないものがあるわけではない。
ただ、プライベート空間に彼を招き入れることに若干の抵抗があるだけだ。
「ダメか?」
「……」
ずるい。そんな言い方をされたら断る理由がなくなってしまう。捨てられた子犬のような眼で見つめられ、壮馬はしぶしぶながらも首を縦に振った。
「わかりました。でも、面白くもなんともないと思いますよ」
「いいんだ。ソウマと一緒に過ごしたいだけだから」
「……ッ」
この天然人タラシがっ! どこまで人を誑かせば気が済むんだ。さっきとは別の意味で頭に血が上って来た壮馬は、リチャードの言葉を無視して運転席の方へと回った。
「どうぞ、乗ってください」
「おっと……怖いな。そんなに怒るなよ。何か悪いことでも言ったか?」
「知りません。知りたくもありません。さぁ、早く行きましょう」
助手席のドアを開け、彼を中に押し込むと強引にドアを閉める。
運転席へと乗り込み、車を発進させる。自分の好みの音楽を掛けている筈なの
に、リチャードが隣にいると思うとなんだか落ち着かない。
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