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寂しい 16
「そんな風に思われていたとは心外だな」
「間違っているとは思えませんが」
現にこうして壮馬の身体を弄ろうとしているじゃないか。呆れたようにそう返せば、リチャードはふむ。と顎に手をやりゆっくりと身体を離した。
「スキンシップのつもりだったんだが、ソウマが嫌がるならもうしないさ」
「……えっ?」
あっさりと身体を離され、戸惑ったのは壮馬の方だった。もっと、強引にコトに及ぶのではないかと覚悟していたのに。
別に、期待していたわけじゃないが、こうもあっさり引き下がられるとは思ってもみなかった。
「どうかしたか? 嫌なんだろう?」
「え、いや……」
戸惑う壮馬の頭をリチャードは優しく撫でた。まるで、先程の壮馬の口調を真似するかのような口調で問いかけてくる。
「別に、嫌なわけじゃ……ない、です…けど…」
壮馬はもごもごと口籠った。別に嫌だとは言っていない。ただ、こんなにもすんなりと引き下がられると拍子抜けしてしまうだけで。
「だったらなんだと言うんだ。ん?」
「……ッ」
思いの外真剣な顔で綺麗なアイスブルーの瞳に顔を覗きこまれて、壮馬は全身の体温が一気に上がって行くのを感じた。
「ソウマ?」
「な、なんでもないですっ。とにかく、早くお茶にしましょう! こ、コーヒーが冷めてしまうのでっ」
リチャードの視線から逃れるように顔をそらし、強引に話を切り替えた。これ以上あの目で見られていたら何を口走るかわからない。
背後でくくっと笑う声がして、じわじわと耳まで熱くなるのを実感する。
「わかったわかった。トレイはそこにあるものを使えばいいのか?」
鮮やかな手つきで、二つ準備されたカップを壮馬の手から奪い、お湯が沸いたばかりのケトルからお湯を注ぐとぱちんとウインクを一つ。
「さっきのキスで腰が立たないんだろう? 持って行ってやるさ」
「……っ!?」
リチャードは何事もなかったかのようにカップとソーサーをトレイに乗せ、リビングの方へと歩いて行く。
壮馬はと言うと、まだ足に力が入らないようでシンクにもたれ掛かりながらズルズルとしゃがみ込み、赤くなった頬を隠すように両手で顔を覆った。
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