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さびしい 17
「はっず……」
こんなにも振り回されて、感情をかき乱されて、悔しいと思うのになぜか強く拒絶することが出来ない。
あの吸い込まれそうな瞳で見つめられると、なにも言えなくなってしまう。
しかもさっき、身体だけが目的じゃないかと言った時に一瞬、物凄く悲しそうな顔をしていたような気がしたのだが気のせいだろうか?
「ソウマ? どうした?」
リビングから呼びかけられ、はっと顔を上げる。どうやら長い事、ボーっとしていて止まってしまっていたらしい。
「今行きます」
慌ててリビングへ向かうと、広めのソファの端に腰を降ろした。自分の家なのにリチャードが家にいると思うとなんだか落ち着かない。
「そんなに警戒するな。取り敢えず今は何もしないさ」
「べ、別に警戒なんてしてませんよ。自意識過剰なんじゃないですか?」
「ククッ……全く、ソウマは手厳しいな」
壮馬の嫌味交じりの言葉も、リチャードには通じないようで、彼は愉快そうに笑いながら距離を詰めて来る。
「ッ、ちょっと近すぎじゃないですか?」
「そうか? 」
ソファに並んで座っているのだから当然と言えば当然なのだが、手を伸ばせば直ぐに触れてしまう距離にいるという事実に気が落ち着かず、壮馬はコーヒーを啜ることで視線から逃れようとした。
だが、リチャードは此方の気持ちなどお構いなしにするりと壮馬の肩に腕を回すと自分の方へと抱き寄せて来る。
「ちょ、ちょっと!! 何もしないって言ったじゃないですかっ」
慌てて身体を離そうともがけば、リチャードはまた楽しげに喉を鳴らした。
「何もしないさ。最初にも言ったが向こうにいる間ずっとこうしたくて仕方が無かったんだ。少しくらい許してくれたっていいだろう?」
そう言って、甘えるように壮馬の肩に頭を預けてくる。ふわりと香る彼の香水の匂いにドキッと胸を高鳴らせながらも、壮馬は呆れたように溜息を吐き、
持っていたカップをローテーブルの上に置いた。
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