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寂しい 19

唇を放すと、透明な糸が紡ぎ、ぷつりと切れた。 壮馬の目にはうっすら涙が浮かんでおり、リチャードは唾液で濡れた顎に指をかけるとそっと拭ってクスッと笑った。 「ソウマに会えなくて、気が狂いそうだった。向こうにいる間ずっとお前の事ばかり考えていて、夢にまで出てきたんだぞ」 「……っ」 熱っぽい声でそんな事を言われても困る。 「俺はソウマに会えなくて寂しかった。……ソウマは? どう思っていたんだ?」 「ぼ、僕は……っ」 年末は忙しすぎて考える暇などほとんど無かった。だが、ふとした瞬間に思い浮かぶのはリチャードの顔ばかりで、声が聞きたいと思った時もあったが時差の事や自分のプライドが邪魔をして実際には行動に移せないでいたのは事実だ。 その事を素直に口に出来る筈もなく、自分のこの感情がどういったものなのか、うまく言葉では言い表せない。 ただ、ハッキリわかるのは彼がいない間、ずっと物足りなさを感じていたということだ。 触れ合う唇の柔らかさや、体温の心地良さ。劣情を孕んだアイスブルーの瞳。 彼の事を思い出すとどうしようもなく身体が熱く火照ってしまい、時には自分で慰めたくなる日もあった。 思い出すのが翔太郎ではなく、リチャードの顔だというのが癪だが、身体が彼に馴染んでしまったのは事実で、彼に作り替えられたと言っても過言ではないかもしれない。 流石にここ数日は蛍が遊びに来ていたので家では極力考えないようにはしていたけれど。 こう言う時、なんと言うのが正しいのだろうか? 自分だって会いたくて仕方がなかったと素直に言えば良いのだろうか? でも、そんな事とても言えるはずが無い。 第一、自分はそんなキャラじゃ無い。 自分の気持ちを上手く伝えられず、言葉に詰まり俯く壮馬の頭にリチャードは優しく手を置いた。

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