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寂しい 22

「……っなにその気になってるんですかっ!」 「ん? ダメか?」 不満げな声で抗議すると、リチャードは切なげに眉根を寄せ甘えるように見つめてくる。壮馬はゴクリと唾を飲み込んだ後、深く息を吐き出して身じろいだ。 「そ、そんな顔してもダメです! まだ昼間なのに」 「夜ならいいのか。なるほど」 「なっ、違います! そう言う意味じゃ……」 面食らって口籠る壮馬を見て、リチャードはククッっと喉を鳴らすとごろりと横になり頭を壮馬の膝の上に乗せかけて来た。 「何して……」 「この位は許してくれてもいいだろう?」 これもダメなのかと、捨てられた子犬のような見上げて来るので、仕方なしに全身の力を抜いた。 「全く……ちょっとだけですよ」 「ああ、わかっている」 嬉しそうにふわりと笑うと壮馬の腹に顔を摺り寄せる。まるで大きな子供だ。 観念してそっと膝の上に落ちてきた頭を撫でた。柔らかで手触りの良い金糸に指を通しながら髪を撫でてやっていると、次第に眠くなってきたのか彼の瞼が少しずつ下がって来る。 「……寝てもいいですよ」 そう声をかければ、リチャードは口元に小さく笑みを浮かべ静かに眠りに落ちていった。 考えてみれば時差もあるだろうし、長旅でよほど疲れていたのだろう。 布団に寝かせてやった方が良かっただろうか? 確か客用の布団があったはずだが……。 そっとリチャードの下から抜け出そうと試みたが、がっちりと腰をホールドされていて動くに動けない。 全く、仕方のない人だ。結局動けそうにもないので、リチャードを起こさないように気をつけながら彼の寝顔を観察してみる。 こうやって無防備な寝顔を見ていると、普段の彼とは違ってどこか可愛らしく思えてくるから不思議だ。 普段は男らしく、精悍な顔をしているのに寝顔は子供のようにあどけない。 ギャップ萌えというやつだろうか?  この顔に女性陣はやられるのだろう。 そんな彼が自分の事を愛しているだのなんだのと猛アピールしてくる。信じてもいいのだろうか?  今のところ女性と交際していると言う噂は聞かないし、今回だって自分に会いたいがために帰国をわざわざ早める位だ。 それはすごく嬉しいし、できれば自分も同じ気持ちで応えたいとも思う。けれど、今までの経験からどうしても自分の気持ちを伝えるのが躊躇われてしまうのだ。 こんなにも自分を求めてくる人に、どう気持ちを伝えていいかもわからず、それを素直に受け入れられないでいる。 「……好き、……か」 声に出して呟いたら、きゅんと胸が締め付けられた。

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