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小さな嫉妬心

ふと目を開けると、膝枕していた筈のリチャードの姿は無く、自分の上に彼の着ていた上着がかけられていた。いつの間に自分は寝てしまったのだろうか。 ボンヤリと思考のまま天井を眺めていると、何やら楽しそうな話し声が聞こえて来る。 一瞬、テレビでも見ているのだろうかとも思ったが、自分の目の前にある壁掛けテレビは真っ暗なままで、人がいる気配は全くない。 ならば誰かと電話でもしているのだろうか? ゆっくりと体を起こして覗いてみればダイニングで楽しそうに談笑する二人の姿が目に飛び込んで来る。 え? なんで? なぜ、妹とリチャードが……? 状況が全く読み取れないが、二人が楽しそうだということだけは理解できる。 一体何の話をしているのだろう? 彼は誰とでも分け隔てなく接するタイプなので、別におかしい事でもないのだが。 「えー! そうなんですか? リックってテレビのイメージではチャラそうに見えたのに……」 リック!? な、なぜ……蛍がリチャードのことを愛称で呼んでいるんだ。 自分だってまだ“リック”なんて呼んだ事ないのに。しかも、何故だろう? 凄く楽しそうにしているのが何となく気に食わない。 ……いや、わかっている。こんなのは子供じみた独占欲だ。二人とも自分と違って人に対して壁を作らないタイプだから、誰とでも仲良くなれる。 だから、別にリチャードと蛍が仲良くしていたって全く問題ない。 問題が無い筈なのに、頭でわかっているのに何故か胸の辺りがもやもやしてしまう。 元々、蛍は野球が好きでリチャードが現役の頃から応援していたのだから、話があったとしても可笑しな事ではない。 そんなことはわかっているのに、何故か……どこか面白くないのだ。 「え? じゃあ、彼女とかは……」 「居ないよ。今、特定の恋人はいない」 「えー! 意外! めっちゃ遊んでそうだとおもってたのに……」 「はははっ! そんなに遊んでそうにみえるかい?」 「見える見える!」 蛍は屈託のない笑顔でリチャードの肩を軽く叩いている。それに対して彼もまた楽しそうに笑い返している。 人の事を散々好きだとかなんだとか言っておいて、彼女はいない、だ? 嘘つけ! などとつい、心の中で悪態を吐いてソファの縁をギュッと握りしめる。 確かに自分達は恋人同士では無いから嘘は言っていないのだろうが、あんな事を言って蛍が勘違いしたらどうするつもりだろう?

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