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小さな嫉妬心 3
「そんなに寂しいことを言わないでくれ。もう少しいいだろう? それに折角久しぶりに会ったんだからもっと話がしたい」
ダメか? と涼し気なアイスブルーの瞳に顔を覗きこまれて小さく息を漏らした。
妹の手前、あまり露骨に感情を出すわけにはいかないのだが、こんな風に言われて断れるはずもなく……。
「あ、あー……。そうだった、私、夕方からまた違う友達と合流する予定だったの忘れてたぁ! ごめんね、お兄ちゃん、私ちょっと出てくるから! リック。また遊びに来てね」
そんな空気を察したのか蛍はわざとらしくリアクションをしてそそくさと席を立つ。
「あ、私今夜は戻らないから二人でゆっくりしてね!」
「なっ!? ち、ちょ……ッ」
リビングの扉を閉じる寸前、ひょっこりと顔を覗かせた蛍は、ぱちんウィンクを一つして早口にそれだけ言い残すと、自分の荷物を引っ掴んで飛び出していった。
「全く、なんなんだ一体」
相変わらず、嵐のような女だと我が妹ながらに思う。もしかして、気を使わせてしまったのだろうか?
「面白い妹さんじゃないか」
「騒々しいって言うんですよ。ああいうのは……と言うか、随分親しく話してたじゃないですか。相変わらず手が早い」
「酷い言われようだ。俺はただ世間話をしていたにすぎないのに」
大袈裟なほど肩をすくめて、リチャードがゆっくりと近づいて来るその笑顔が若干意地悪い物に見えたのは気のせいだろうか?
「世間話、ねぇ……ニックネームで呼ばれて鼻の下を伸ばしてたくせに」
言いながら、何か違うと思った。これじゃただ、リチャードと仲良くしている妹に嫉妬しているみたいじゃないか。
自分以外の人間にいい顔しているリチャードを見て嫌な思いをするなんて、いつからこんなにも彼を意識していたのだろう。
急にぼっと顔を赤くした壮馬を見て、リチャードが一瞬驚いた顔をする。 だが、すぐに何かを察したのかにやりと口元を歪めて、その長い指先で顎をくいっと持ち上げてくる。
「ソウマ、ひょっとして……ヤキモチを焼いてるのか?」
「なっ!? そ、そんな訳ないじゃないですか」
「そうか?」
「そうです。きっと監督の勘違いですよ」
「勘違い……ねぇ?」
なおもニヤニヤとして何か言いたげなリチャードだったが、ぐぅ~~きゅるる~~っ。と、言うなんとも間抜けな音が部屋に響いて思わず二人とも固まってしまった。
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